逃げ方を忘れたウサギ
秋頃、畑の畝を新しく作るために刈った草を集めようとしたとき
ガサガサ
っと音がしてそちらの方を向いてみると薄茶色の毛玉が上下しながら遠ざかって行くのが見えました。
はじめにウリ坊が思い浮かびましたがそれにしては小さいと感じました。
なんだろうなと思いながら、その毛玉が完全に走り去ったのを確認して作業に取り掛かろうとしたとき、5m程離れた低い草むらに隠れている毛玉に気が付きました。
僕は全身が草に隠れた毛玉にゆっくり近づくとそれは胴が長く頭が胴と同じ角度についていることがわかりました。
もっと近づいてみると身体に対して大きな耳が付いているのが分かり、その毛玉がニホンノウサギであることが分かりました。
珍しかったので保存用に写真を撮ったあと、しばらく近くにいましたが一向に逃げる気配もないため放っておいて作業を続けることにしました。
30分ほど作業し、再び様子を見に戻ってくると全く同じ位置に同じ格好で留まっていました。
僕はこのウサギがなぜこのまま留まっているのか考えました。
考えた結果、3つ仮説が思い浮かびました。
1:何かを食べるため
2:どこか怪我をしているため
3:ストレスに対する対応方法がわからない
1は口元が動いていないことから違うとわかりました。
2は見た目からして出血している箇所は無さそうでしたが、捻挫や骨折の可能性は見た目では排除できませんでした。
3を確かめるためにウサギから正面の30cmほど離れた場所に使っていたアメリカンレーキを落として反応を見ることにしました。
ドスッ
っと落としてみると、全くの無反応でした。そのことから僕はこのウサギはストレスに対する対処ができないためにこの場に留まっているのだと理解しました。
さらに僕は考えました。このウサギは放置するとどうなるだろう、と。
その答えは明白でした。どう考えてもどのみち烏や鳶などの肉食動物に襲われて食べられる運命しかないと思いました。それと同時に僕はペットとしてこのウサギを飼育する余裕はないことを理解しました。このまま逃がす以外に僕に選択肢は残されていませんでした。
しかし、それは同時にこのウサギの死を意味するのと同義でした。
少し考えた結果、このウサギが生き残るほんの僅かな可能性に気が付きました。それは、この場でこのウサギに『逃げる』ことを覚えて貰うことでした。僕は迷いなくそれを実行することにしました。
僕は軽くウサギを持ち上げて、後ろ脚を何度か曲げ伸ばししました。するとそのウサギも自分で脚を動かし始めたのでウサギを放すと他のウサギの走っていった方向に勢いよく走っていきました。
1週間後、澄み渡る秋空の下、その近くの田んぼに行ってみると目新しいウサギの糞がいくつか落ちているのを発見しました。




