宇宙工場サブファイロット 02章 データ人工衛星1
02章 データ人工衛星1
「ここが、僕らの宇宙ステーション?」
すっかり彼らの居間となっている展望ルームの丸テーブルには、旧式の宇宙マップが広げられていた。
コピーを重ねたとみえて、スクリーンに映る映像の輪郭はぼやけている。覆い被さるようにして地図をのぞきこんでいたナットは、幾重もの楕円や丸、ラインや点線で埋まった電子地図の一点を指さした。
「そうだな。そのSub.Pとだけ書いてある、それがこの宇宙ステーションのことだったのよ。」
椅子にもたれかかって頭の後ろで手を組み、くつろいだ様子でパドが答える。パドは、この宇宙ステーションに曳航船と自分の船を無事に着陸させると、彼の船の修理が終わるまで、ここに留まることにしたのだった。あのウイルスは厳重にロックされ、保管庫にしまわれた。
そして、一晩たってこの部屋に現れた彼は、相変わらず薄汚れたパイロットスーツを着ていたものの、無精髭を剃り、茶色のぼさぼさ頭に櫛も入れて、最初の印象よりよほど若い男に見えた。
展望室にはスペア、ナット、ボルトも揃い、例のごとく甘い匂いが立ちこめている。
「それより、タバコ吸っちゃだめかい?」
「だめだね、おっさん。ここにいる間は我慢してもらうしかないな。」
スペアが即答する。
「ちぇっ。つまらないところに来ちまったもんだ。」
しかし、本気で言った訳ではない。彼がこの宇宙ステーションに来てまだ一日だったが、見るもの聞くもの、すべてがあり得ないものばかりで、退屈する心配はまったくなかったのだ。
「心配ないよパド。これを吸ったらいいよ。」
無邪気な様子でナットが皿を差し出す。そこには揚げたちくわ(今度はチョコレートソースがかかっていた)が入っていた。こういったものも、あり得ない物のひとつである。
パドはナットが差し出した皿を嫌そうに見て、
「これを、俺に吸えってか? いったいお前たち、どういう教育を受けてきたんだ。まったく親の顔が見たいもんだな。」
あきれたように言うと、宇宙地図を真剣な顔で見ていたスペアが顔を上げた。
「何だっておっさん。親の顔?」
「そうそう。お前らだって親の顔ぐらいは分かるだろう? ちくわの食べ方は分かっちゃいないようだが。」
スペアとナット、ボルトが顔を見合わせる。
「え? まさかお前たち、親の顔も分からないって言うんじゃないだろうな?」
「知らないよ、ねえ。」
ナットがあっけらかんと答え、ボルトもうなずく。スペアが続けた。
「おっさん、おっさんのいた所ではどうだか知らないけど、俺たち生まれてしばらくしたら、みんな保育エリアに行って、そこで育つんだよ。」
「親の顔なんて知らないな。」
ボルトがそっけなく言う。パドは驚いて三人を見やった。
「じゃあ・・・その、なにかい。親の顔も知らないで、保育所でずっと過ごすのか? 大きくなるまで?」
「大きくなるまでいるわけないだろ。ロボット初等教育と、幼年実習と適性診断があって、それから工場に入るんだから。」
「いくつぐらいで?」
「いくつ? いくつって何が。」
無邪気に尋ねるナットに、パドははたと困った。年齢のことを言っているのが通じていないと気づいたからだ。
「ああっと・・・、つまり、何才で工場に入るかってことだね。生まれてからの年数だよ。それは分かるだろ。」
ナットはきょとんとしている。彼はスペアを振り仰いだが、そのスペアも困ったような顔をボルトに向けた。彼女は「私かよ」という顔をしたが、その長い髪をかきあげながらパドを見て、
「そんなの分かるもんか。だいたい、生まれてからどれだけ経ってるかって、いったい何の役に立つんだ。」
「うん、僕も聞きたい。」
ナットが頬杖をついて楽しそうに見上げる。パドは言葉を失い、ぱくぱくと口を動かした。
「そんなに変なことなのかなあ。他のステーションでは生まれてからの年数を数えるんだね。おかしいの。僕ら、そういうのはないよね。」
「じゃあどうやって年上とか年下とか分かるんだい。」
「年が上とか下とかもないよ。単に、サイクルが多いか少ないかだよな。サイクルってのは、工場で働いた時間の合計単位なんだ。」
スペアが説明すると、ナットも続けて、
「うん。僕は28サイクルだから、まだ少ないんだ。スペアは37、ボルトは多かったよねー。43だったっけ?」
ボルトはパドが断ったちくわのチョコレートソースかけを、満足げに口に放り込んでいた。むちゃむちゃと食べながら、
「調整室は人数が少ないんだ。残業が多くてたまらん。その点、スペアの設計室はいいよな。休みを多く取るよう奨励されるんだろ?」
花瓶の水を飲みながら、スペアを見る。
「うん、新しい発想やデザインは、十分な休息と気分転換から生まれるって、レジェンドさんがそういう言葉を残したらしい。だからだな。でも、休みったって、他の部署をまわったり昔のデータブックを読んだりで結構忙しかったよ。ナットのところはどうだった?」




