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宇宙工場サブファイロット 01章 謎の宇宙船6

 ハッチが閉まり、宇宙服を脱いで二人が隔壁を開けると、そこは、なんとも狭くて汚い部屋だった。いろいろなものが散乱し、ぐちゃっとしている。

 二人が足元に散らかったいろいろなものをよけつつ歩いていくと、不意に部屋の反対側のドアが開き、大柄のパイロットが入って来た。


「こんにちはー。」

 ナットの脳天気な挨拶に、その男はちょっと驚いたらしい。二人をまじまじと見下ろす。相手は無精髭を伸ばした長身の男で、その髭と、ぼさぼさの濃い茶色の髪のためはっきりとは分からなかったが、ぱっと見、中年といった年齢のようだった。

「あの船を俺の船に衝突させようとしたのはお前たちか?」

 開口一番の挨拶に、ナットはあわてて、

「いや、違うんです。僕ら操縦資格を持ってなかったんで、それで。悪気はなかったんですけど。」

 相手は呆れたように二人を見下ろし、

「無免許操縦って訳か? だいたいお前達みたいな子供がこんなとこで、あんな船に乗って何やってる。」

 相手の男は、もとは白かったらしい薄茶のパイロットスーツのポケットに無造作に両手を突っ込み、身を軽くかがめた。もの慣れた様子からしても、多くの距離を飛び、経験を積んだパイロットなのは明らかだった。子供と言われてカチンときたスペアは、

「子供じゃない。俺はスペア、こっちはナット。あんたは?」

「俺か? 俺はガスパード。パドでいい。」

「じゃパドのおっさん、」

「おっさん? お前も相当手厳しいな。」

 男はにやりと笑った。隙のない雰囲気をまとっているが、どことなく憎めない感じもした。


「俺たちから見たらおっさんだもんな。俺たち、別に何かないかと思って飛んでいただけなんだ。」

「何かないか?」

「うん・・・。おっさんこそ、ここで何やってるんだ? この船、ずいぶん改造してあるみたいだけど、そもそもこれって近距離用の自家用シップだろ。」

 パドはじっと二人を見やった。ナットも素早く辺りを見回す。

「運搬船じゃないよね。大きさからいってもそれはないや。旅行でもない。密輸船・・・にも見えないし。装備がなさ過ぎるもの。ただ飛んでるだけみたいだ。」

 パドの目がますます鋭くなる。そしてつとめて何気ない、ゆっくりした口調で、

「まず、俺の船に追突しそうだったことを謝る気はないのか?」

「そうだった。それは謝る。すみませんでした。」

 スペアは深く頭を下げた。ナットも両手を体の脇につけて頭をさげ、「ごめんなさい。」と言う。この反応には、パドも驚いたようだった。


「いやに素直じゃねえか。本当に変な奴らだな。お前たち。」

「そうですか? ね、それより、ほんとに何やってるの。この辺り、近くに宇宙ステーションでもあるの?」

「・・・お前達だって宇宙地図くらい読めるんだろう? この近くに、宇宙ステーションがあることぐらい分かるだろう。」

「やった! どのへんに? 何てステーション?」

 ナットは喜んだが、パドはますます当惑したように顔をしかめた。乱暴に傍らの粗末なソファに腰を下ろすと、「まあ座りな。」と足を組む。

 スペアたちは辺りを見渡したが、他に椅子も見えないので、ごちゃごちゃと物が積まれていた長いすの上に乗っていた物をどけ、そっと腰を下ろした。パドは、ポケットからタバコを取り出し、火をつけようとしたが、

「タバコはだめだ!」

「そう、つけないで!」

 スペアとナットが同時に叫んだ。


「なんだ、お前らタバコ苦手か?」

「万一オイルに引火したらどうするの。絶対にだめ!」

「そうだ、たとえ休憩室でもな。それに煙が精密機器に悪影響を与えるし、正確な数値が出せなくなる。」

 二人は顔を見合わせてうなずき、パドの方に向き直る。パドは、

「オイル? 精密機器? そんなものここにあると思うか? ・・・まあいい。お前たちの事を先に聞こうぜ。スペアとナットって言ったな。まず、お前らどっから来たんだ。」

「・・・。」

 二人は黙り込んだ。ここは、微妙なところだった。

「何だ、言いたくないのかい。」

 このパドが、誤作動が起こったロボットに追い出され、宇宙を放浪しているという可能性は少なさそうだが、ゼロではない。仮に追い出されたくちだったら、ロボット供給工場として名高い(はず)の彼らの宇宙ステーション名を言ったら、早速揉め事になるだろう。それはごめんだった。


「まあ・・・、その・・・、いろいろあって。」

 ナットが言いずらそうに答える。

「ふぅ・・・ん。で? 免許もなしにあんな豪勢な船を乗り回す目的は? 憂さ晴らしか?」

「そんなんじゃない。俺たち、とりあえず、通信システムの基本プログラムが欲しかったんだ。」

「なに?」

「通信システムの基本プログラム。宇宙共通の。」

「聞こえてる。だがそりゃいったい何の事だ。」

「だから・・・、通信プログラムが残ってなくて、誰とも交信できないってわけ。通信システムはあるんだけどね。」

 ナットの説明に、パドはぼりぼりと汚れた頭をかいた。

「待てよ・・・。通信機器があるなら、プログラムが入ってない訳ないだろうが。今時そんなアホな不良品ありえねえだろ。」

「説明すると長くなるけど、とにかく持ってないんだ。困ってるんだけど、おっさんのをコピーさせてもらえないか?」

 真面目にスペアが聞く。

「それだったら残念だな。俺の船の通信システムはいかれてるよ。磁気嵐にあってな。」

「嘘ぉ。プログラムも飛んだってこと? なんで磁気シールドしとかないのさ!」

「あれを付けると高いからな。」

 今度はナットが呆れたような目でパドを見る番だった。「信じられない」と小さくつぶやく。スペアは低い声で、

「ちょっと待った。おっさん、通信システムはいかれてて、こんな船で、この装備で、つまり漂流してたって事か?」

 するとパドは愉快そうに笑った。


「言ってくれるねえ。残念、漂流を気取るほど若くねえよ。俺は、まあ、ちょっとした用がサブファイロット工場ステーションにあってな。」

「サブファイロットステーション。」

「知ってるじゃないか。この近くの宇宙ステーションだ。まあ、お前たちになら話しても害はないか。ま、ちょっとした恨みがあそこにはあってな。」

「恨み、ですか。」

 ナットの声も低くなった。スペアとナットはそっと目を合わせた。やっぱりそうだ。パドも狂ったロボットに放り出された一人に違いない。だから、苦情を言いにはるばるどこからか、改造シップでやってきたのだろう。サブファイロット、それこそは自分たちの宇宙ステーションの名だったのだ。

「それは・・・さんざんな目に、あったんだろうねえ。」

 ナットがおそるおそる尋ねる。パドはふっと鼻で笑ったようだった。


「ま、あそこの殺人ロボットに家族を殺された人間なんざ、ごまんといるって言いたいんだろ。そんなんでいちいち恨みに思ってちゃ身が持たないってな。だが、俺の家族も仲間も、ステーションごと皆殺しにあったのさ。――俺は、たまたまよそにいたから助かったがね。」

 パドはこともなげに話していたが、ナットとスペアはさっと体を固くした。

「なんだって・・・?」

「皆殺しって、言ったの? ロボットが?」

「そうさ。奴ら、まったく容赦ないもんだ。特に資源もなにもない、片田舎のステーションだ。皆殺しにする理由なんかどこにある? まあ、いまさらだな。ロボットに命令した奴らが悪いってのも分かってる。だがな・・・。逆恨みって言ってもいい。とにかく俺は、ロボット工場のやつらにも同じ目にあってもらおうって腹でな。」

「どういう意味です。」

「致死性のウイルスさ。俺は昔は化学関連の運搬屋だったんだよ。そいつを一瓶くすねてここに積んである。あれをサブファイロットにぶちこんでやれば・・・。ステーションは一日で全滅、とまあ、そういう訳だ。」

「だって、僕た――、その宇宙ステーションの人たちが、パドの仲間を殺したわけじゃないのに!」

 ナットが叫ぶ。パドは暗い微笑を浮かべた。

「同じ事だろ? 奴ら、人殺しのロボットを、それもたいそう性能のいい素晴らしい奴をな、たんまり宇宙にばらまいて、いい生活して毎日豪勢に暮らしてる。自分たちの造ったもんで、たんまり儲けて。俺の家族や仲間を殺して得た報酬でな。」

「そんなことしてないよ! 僕たち、豪勢な生活なんてしてないもの!」


 思わずナットは叫んでいた。スペアがあわてて彼の口を抑えたが手遅れである。パドは二人を凝視した。その視線に耐えられず、スペアは顔をそらし、そして泣きそうになってるナットに気づいてその頭を撫でてやった。

「お前たち・・・?」

 スペアはパドを見ると、静かに、

「ナットの言うとおりだ。おっさん、誤解してるよ。俺たち、誰も豪勢な生活なんかしていない。それに――、おっさんがウイルスなんてまかなくても、ステーションには今、誰も人間はいないんだ。」

「なんだと?」

「それも説明してたら、時間がかかりすぎるな。俺たちの船で待ってるボルトが、ボルトっていって俺たちの仲間なんだが、心配はしないだろうから、たぶん俺たちをおいて帰っちまう。ステーションにいるのは、俺たち三人だけなんだ。残りは全員行方不明なんだよ。」

 パドはじっとスペアと、その肩にもたれて泣いているナットを見つめていた。




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