宇宙工場サブファイロット 01章 謎の宇宙船5
「待てよ。ここらへんは私たちの宇宙ステーション以外、まだ何も見つかってない空域だろ。だったら少なくとも中距離用シップのはずだ。」
ボルトが口を挟む。スペアは映像を注意深く眺めて、
「中距離用にしてもずいぶん小さい船だな。改造船かもしれない。まあじきに分かるだろ。それより、もっと近寄ってみよう。ナット、そっちに自動追尾システムがあるはずだ。」
「これ?」
「そうそう、それを押してくれ。追尾しよう。」
曳航船は進路を変え、相手の船に向かい始めた。モニターの白い影は、どんどん大きくなっていく。それにつれて、不安定な推進装置の様子も見て取れた。
「スペア、ボルト。あの船故障してる。」
「うん、ふらふらしてるな。それに、ほんとに小さい。何の・・・船だろう。」
「さあな、それより相手が不安定すぎて、うまく自動で追尾できない。手動に切り替える。」
「分かった。」
しかし、曳航船はそのまま大きな弧を描いて飛び抜け、相手の船を遥かに追い越してしまった。
「なにやってるのさー。」
「難しいな、出力を落としても惰性で飛んでいっちまう。」
「僕にやらせて。」
ナットがスペアから移動式操縦桿を受け取ったが、今度の操縦はもっとひどかった。なんとかUターンしたまで良かったが、急激に加速するなり、あわや相手の船と接触かという距離でかすめ過ぎ、そのままあっと言う間に通り過ぎてしまった。
「ほんと・・・難しいや。」
「ナット、お前、曳航船の操縦資格なんて持ってるのか?」
「いや、操縦自体初めてだよ。どうして?」
「どうしてって。」
「そういうスペアだって、資格持ってるにしては、さっきの乱暴だったじゃない。」
「俺だって持ってないよ。」
残りの二人がはたとスペアを両側から見つめる。
「えー?」
スペアは平然と、
「俺は設計室の所属だから、曳航船の操縦資格なんてあるわけないだろ。シミュレーションは何度かこなしたけど。」
「なんで今まで言わなかったんだ。」
「聞かなかったじゃないか。」
「そうだな。」
ボルトはあっさり納得した。こうした素直な、あるいは脳天気な性質は、多少の差はあれこのステーションで生きる人間に共通のものである。
「逆推力装置を使ってみたら。」
ナットが提案すると、
「なるほど、こういう時に逆推力を使えばいいのか。設計していても考えたことがなかったな。」
スペアは感心して、傍らの小さなレバーを左手で引いた。すると、推力がみるみる落ちた。
「やった!」
「ナット、こっちは推力調整で手一杯だ。お前方向を頼む。」
「まかせて! この中央のクロスに合うようにしたらいいんだね。」
「そうそう。ボルトは目標までの距離を言ってってくれ。」
「分かった。あと3.2、3.0、・・・2.5、・・・2.0。もっと落としてくれ。また通り過ぎる。」
「もっとか。このくらいか?」
「いいんじゃないかな。」
ようやく、彼らの船は相手の船がはっきり見えるくらいまで近づいた。向こうの船は明らかに一人乗りの自家用シップで、エンジンを改造して長距離用にしているようだった。シルバーのボディは年期が入っていて、かなりくたびれている。
こちらの船にはとっくに(あやうく追突されそうになったから当然だが)気がついているようで、向こうも推力を落としていた。
「相手の操縦はうまいな。」
「感心してないで、距離を頼むったら。」
「そうか。あと0.35。単位を変える。34ミナン、・・・30、・・・25。ナット、向こうと機首が揃うように旋回した方がいいと思う。」
「了解。ちょっと回すよ。」
間もなく、二隻の大小の船は宇宙空間に並んで停止した。通信装置が役に立たないため(宇宙共通の通信プログラムは三人の船にない)、スペアとナットは向こうの船に乗り移ることにした。宇宙服を着てハッチを開くと、向こうでも事情を察したのかハッチを開けた。スペアとナットは船をボルトに任せると、銀色の小型船に乗り込んでいった。




