宇宙工場サブファイロット 04章 2つのチップ5
かすれ声で尋ねるパドに、ボルトはいつものぶっきらぼうな調子で答えた。
「つけてきた。夜中に廊下から足音がしたからな。あんた、狂ったロボットが出るかもしれないところに、よく一人で来る気になるな。」
そして散らかった室内を見渡し、なんとか座れそうな椅子があるのを見て、勝手に腰を下ろしてしまった。テーブルの上に放り出したデータブックをどうやって相手に気づかれず、さりげなくしまえるか頭をしぼっていたパドは、ふと相手が、変にぼんやりした目で自分を見ているのに気づいた。その時彼は、ボルトがずっと前からここにいたのだと不意に悟った。
「お前、まさか――」
「植物には食べられるものがあるって話、知ってるか。」
ボルトは唐突にそう言って、長い髪をうっとおしそうにかきあげた。それからテーブルの上のごみの中で光る、データブックを冷たい目で一瞥すると、
「私が所属している調整室の、前の前のチーフは、変わった女性でな。私が小さい頃、調整でミスをやって、事故が起きて、管理エリアに収容された時、私をかばって収容時間を半分自分に移してくれた。」
彼女はいつになく、沈んだ目で続けた。
「そんな事をする人間は、まずいないんだ。ミスの責任はミスを起こした人間が取る。それが当たり前だ。子供心に、不思議な女性だと思っていた。そのチーフも、植物が好きだった。彼女はそれからすぐに死んだが、持っていた貴重な植物の鉢を、私にくれた。これは食べられる植物だから、時々、葉っぱを食べてみろと。胸がすっとして、いろいろ考えられるからと。」
そして、首をゆらゆらと振ると、
「スペアもちょっと言っていたけど、もし私が、何かあいつらより考えることが出来るとしたら、あのチーフのおかげなんだろうな。」
ボルトは目を閉じたが、やがて目を開けると、テーブルの上に放り出されたままのデータブックをパドに投げて、
「こんなもん、スペアやナットに見せるなよ。サブファイロットの人間はみんな楽天的でのんきなんだ。ショックを与えてもらっちゃ困る。スペアは落ち込んで暗くなっちゃうだろう。ナットも泣き出すだろうから。」
そう言うなり、勢いよく椅子から立ち上がって、
「私、もう行くよ。」
と船を出て行きかけたが、入り口近くでパドを振り返ると、
「言うのを忘れてた。明日はちゃんと朝食に来てくれ。ナットが心配してる。」
「待てよ。」
急いで立ち上がったパドは、データブックを棚にしまうと、つまらなさそうな表情で待っていたボルトの前に立った。
「狂ったロボットが出るかもしれない所を、ひとりで帰るのか? スペアやナットに知られたら卒倒するぞ。俺も一緒に帰るよ。ちょっと待ってろ。」
ボルトは軽くうなずき、操縦席に入ったパドは船の動力を落として戻ってきた。間もなく、静まりかえった発着場に二人の影が長く伸びていった。
「お前さんは、大丈夫かい。自分たちの食ってたものに、そんな物が入れられてたなんて知っちまって。」
しばらく黙って並んで歩いていたパドが、静かに尋ねる。ボルトは足を止めず、彼の顔をちらっと見たが、
「調整室ではいろんな事が起こるんだ。いちいち気にしていたらロボットなんて完成しない。」
ぶっきらぼうに言って、
「あんたは知らないだろうけど、調整室は製造室の次に事故が多くて、人の入れ替わりが激しいんだ。納期に間に合わなくて、いい加減に組み立てたロボットなんかも回ってくるから。」
鼻をすすると、一層乱暴に、
「でももちろん、ナットの製造室の方が危険なんだ。30サイクルを迎えられるのは、三人に二人だって話だから。」
と、また鼻をすすりあげる。パドは黙ってそんな彼女を横目で見ていたが、鼻をぐすぐすやっているボルトの肩に黙って手を置いた。ボルトは口をきっと結び、泣いているのを気づかれないよういっそう乱暴に足を進めた。
「大統領め。」
パドが静かにうなずく。二人は、明かりの灯る発着場の出口へと無言で歩いた。
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