宇宙工場サブファイロット 04章 2つのチップ4
パドはそのまま自分の部屋にこもってしまい、夕食の時間になっても姿を見せなかった。スペアたちは部屋の前に行って彼を呼んだが、返事がなかったので、仕方なく三人だけで夕食(朝食の残り)を食べた。
つい数日前までは当たり前だった三人だけの食事も、何か物寂しい雰囲気である。特にナットは何度も心配して、パドを迎えに行こうと口にしたが、とうとうスペアが、「おっさんだって疲れが出たんじゃないか、ここまでずっと、ひとりであの船を操縦してきた訳なんだし。」と言ったのでようやく黙り、その後は黙々と夕食を食べた。
味気なく静かな夕食が終わると、今日は早く休もうということで意見が一致し、彼らはパドの分の夕食を入口近くのテーブルに置くと覆いをかけて、それぞれの部屋へと引き上げた。
そして、みんなが寝静まった頃。パドの姿が意外なところにあった。暗く静まりかえった発着場である。
彼はひとり、彼の小型船がある発着場奥の格納庫へと向かっていった。ロボットたちは夜間は充電のために引き払っており、発着場の照明も最低限に落とされている。薄暗くしんと静まりかえった発着場を、ビームライフルを片手に、もう片手に小型の携帯ライトを携えて、パドは足早に歩いていった。底のすり減ったブーツの音が反響しながら辺りに不気味に響く。格納庫へ入ると、彼は適当に見当をつけ、壁のパネルのボタンをいくつか押した。不意に照明がつき、格納庫がさっと明るくなる。隅に見慣れた小型船を見つけると、中へ入っていった。
パドの小型船のエンジンは修理中だが、室内はまだ手つかずである。中に入ると、そこは相変わらずごちゃごちゃとしていた。着替えの服やごみ、保存食などの空箱が床に散乱している。パドは小型ライトで足下を照らながら慎重に歩き、操縦室へと入った。しばらくして船の動力が入る音がし、低い振動音と共に真っ暗だった船内に明かりが点った。
ごちゃごちゃした居間に戻ると、パドは壁際の棚に近づいた。棚にはいろいろなサイズのデータブックが乱雑に詰めこまれている。その背のタイトルを一つ一つあらため、ようやく目当てのブックを見つけると、取り出して埃を払い、暗い顔つきでその表紙を眺めた。
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そう表紙に書かれた小型のデータブックを片手に、薄汚れたソファに腰掛ける。周囲に静かにほこりが舞い上がった。彼は、やや擦り切れたデータブックを開き、指先で操作していった。
「やっぱりな・・・。」
低いつぶやきが漏れる。パドは、昼間スペアの部屋で見た乾燥食料の成分を確かめに、ここに来たのだった。
「・・・KKR35。精神制御薬。効能、思考を抑制し従順にする。副作用、思考力の低下、不眠か。こっちは性欲の抑制。TRS22は睡眠欲の抑制、興奮剤――。NJA88。集中力を一時的に高める。長期にわたって服用しない事。副作用は・・・冗談だろ――。」
暗い目でデータブックを操作していくと、緑色に光るデータブックの画面には、注意書きの赤い光も混じるようになった。
「P63280は――、そうだな、Pは毒物だ。P63280。神経毒。症状、手足のけいれん、麻痺。P93581。・・・徐々に体を弱らせるって事か。これもか。」
しばらくデータブックを読んでいた彼は、突然データブックを汚れたテーブルの上に放り投げると、両手で顔を覆った。スペアの部屋でも薄々気づいていたが、これではっきりした。この宇宙ステーションで一般に、そしてスペアにもナットにもボルトにも配られていた食料には、大量の精神制御薬と、場合によっては毒物までもが含まれていたのだ。
考えてみたら、スペア達が妙にさばさばしていて深くものを考えないのは、性格といってしまえばそれまでだが、確かに少し妙だった。それに彼らは繰り返し言っていた。『誤作動が起こって始めて考えるようになった』、『気づいた』と。それはこの乾燥チップを食べなくなり、それまで食べる事が出来なかった贅沢な、正常な食べ物を食べるようになったからではないのか?
それだけではない。ロボット製造に役に立たないような老人や、『ブラック』――何か反抗的な者だろうか、そういう者には毒入りの食料が配られていた事も明らかだった。
「なんて所だ、ここは! これが宇宙最高のロボット工場、最大の利益をあげている宇宙ステーション、サブファイロットなのか!」
パドはうめいて、身をよじった。その時、部屋の入り口からかすかな音がし、彼はとっさに立ち上がってビームライフルを向けた。が、そこにいたのは作業ロボットではなかった。言葉を失って立ちすくむ彼に構わず、相手はふらりと部屋の中に入ってきた。
「・・・お前、何してるんだ。」
次回更新は3月中旬の予定です




