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宇宙工場サブファイロット 04章 2つのチップ3

 「さあて。何が出てくるかな。楽しみなもんだ。」

 スペアの椅子の背に手をかけながら、ちょっとおどけた風にパドが身を乗り出した。ナットとボルトも、スペアの両側から挟み込むようにパネルデスクをのぞき込む。

 彼らは、スペアの部屋へ移動していた。データの解析となれば、やはりスペアの独壇場である。

「念のため、外部とこのパネルデスクは回路を遮断する。・・・これでよし。これで、これから表示される内容が外のロボットに知られる心配はない。」

 そう言うと、彼はデータチップをデスクに差し込み、素早くキーを叩き出した。パドがすっとドアに近づき、ロックされているかを確かめる。間もなくパネルデスクの画面には、緑色の細かい文字が映り始めた。皆は思わず一心にその文字を読んだが、やがて、静まりかえったスペアの部屋にナットの失望の声が響いた。


「なんだー。これ、乾燥チップの配合表じゃない。」

 がっかりしたナットは、そのままスペアのベッドへと大げさに倒れ込んだ。

 乾燥チップとは、この宇宙ステーションでもっとも一般的な固形食料でのことある。ほとんどの人間がこれを食べており、どこでも手軽に求められるようになっていた。それ以外の食料となると、上級チップ(味が上等になるが、同様の乾燥食料)か、高価で大変めずらしい輸入食料(野菜、肉、魚など)しかない。残りの三人も思わず顔を見合わせ、ため息をついた。スペアが小さな文字を読み上げる。

「『合成チップ223配合表 一般用A 【イエロー】 最終更新0233F6587 データサイズ8a22 極秘』 『合成チップ226配合表 一般用B 【グリーン】 最終更新0233F6587 データサイズ8a92 極秘』・・・ずっと乾燥チップのタイトルばかりだ。」

「サブファイロットの全データがあの人工衛星に保管されてるとしたら――、そりゃ当然、こういうのもあるよな。」

 ボルトも落胆気味に続ける。

「一応タイトルの中身も見てみるか? 乾燥チップの材料だけど。」

「そうだなあ。せっかくだから見てみようよ。」


 気乗りしなさそうにボルトは答え、パネルには新たな内容が表示された。しかし今度は略語や専門用語ばかりで、スペアにもボルトにも何の事やらちんぷんかんぷんである。

「まあ、仕方ないよな。次のデータチップに期待しよう。」

 残念そうなスペアの声に、ベッドの上で腹這いになり、足をばたつかせて遊んでいたナットが答えた。

「そうだね、乾燥チップの材料が分かってもね。うーん、チップだらけでまぎらわしいね。データチップ、乾燥チップ。そういえばチップって名前のひとが製造室にいたっけ。」

 そのままごろんと仰向けになり、

「もっとサブファイロットでも独特の名前をつけたらいいのに。チップにチップを取って来させろとか、僕にナットをはめろだとか、なんでこんなまぎらわしい名前にするんだろ。」

 苦笑したスペアは、パネルデスクに向き直ると、

「じゃ、このデータチップは一応ロボットに見つからないよう、しまっておこう。ええと、おっさん、そこいいか?」

 データチップの取り出し口をふさいで立っているパドを仰ぎ、スペアは声をかけた。しかし、相手は聞こえていないのか、動かない。スペアがもう一度繰り返そうとした時、彼の異様な緊張に気づいたボルトが鋭く尋ねた。


「何か気になるのか? パド。」

 パドは答えず、口を強く結び、食い入るように画面の文字を見ている。そしてやにわにスペアの前に手を伸ばすと、キーをもどかしげに叩き、他のタイトルの中身を表示していった。画面に流れる文字を次々と読み下す。スペアたちはぽかんとして彼を見守った。

「何がおかしいんだ?」

 ボルトが再び低く尋ねると、彼はゆっくりと、ボルトの方を見た。その顔から表情が消えている。驚くボルトをよそに、彼は、そのまま目を瞬いて顔を背けた。

「おっさん?」

今度はスペアが声をかけると、パドは黙って目の辺りを手で押さえた。しばらくして、静かに口を開くと、

「お前たちは、ずっとこれを食べていたのか。」

「うん。そうだけど。」


 するとパドはじっとスペアを、そして、ボルト、ナットを順に見た。もう一度目をこすると、やさしい調子で、

「お前たち。二度とこの食料は食べるなよ。スペアの飯だけを食うんだ。分かったな。それからスペア、お前は大統領の倉庫から取ってきた材料だけを使え。いいな。」

 そう言うと、突然乱暴にスペアの頭を撫で回した。スペアは目を丸くして相手を見上げ、ボルトも「なぜだ」と鋭く言ったが、パドは黙って手を下ろすと、

「俺はちょっと疲れたよ。悪いが休ませてもらうぜ。」

 そう言うなり身をひるがえし、部屋を出ていってしまった。後に残されたスペアたちが呆然とその後ろ姿を見送る。ナットはドアまで駆け寄って声を掛けたが、彼は振り返らず、肩を落としたまま通路の奥に消えていってしまった。

「おっさん、どうしたんだろう? こんなのただの材料表じゃないか。『セルロス115 セルロス117 ブドット252 カリルム53 KKR35 REA75』 何の事か全然分からないけど。――うん? こっちの『老人用』は全然記号が違うな。」

 隣のボルトが低くつぶやく。

「『ブラック』も違うぞ。P63280とか、桁の違う表記がある。パドには何の事か分かったんだな。」

 無意識にパドの出ていったドアの方に目を向ける。ちょうどその視線の先にいたナットが言った。

「そういえば、パドが言ってたよ。始めて会った時。昔、化学関係の運搬をやってたんだって。」

 スペアがぱちんと指を鳴らす。

「そうか、それでおっさんにはこれが何の事か分かるんだ。でも、何で二度と食べるななんて言うんだろう?」

「ひょっとして、栄養バランスがよくないのかな・・・。」

 不安そうに言うナットに、スペアが困惑しながら続ける。

「そんなはずないだろう。だって乾燥チップは、もっとも安全で完全な食事なんだから。」


次回更新は2月下旬の予定です

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