宇宙工場サブファイロット 04章 2つのチップ2
「おっさん、ステーションの誰だって、仲間を宇宙に追い出すような命令をするはずないよ。それにあの時は、製造室のクレーンに吊られたロボットまで誤作動を起こしたんだ。まだ正式に完成もしてないような奴だ。誰の命令を受ける暇もない。第一、大統領まで追い出されてる。このステーションで、大統領以上に命令優先順位の高い人間なんていないんだ。その大統領がロボットに暴れるのを止めるよう緊急放送しても、ロボットは皆を宇宙船に詰め込んだんだから。」
ナットもうなずき、ボルトも低く、「外からの命令で暴れたんじゃないのは、確かだと思う。」と静かに言った。
三人の反撃に、パドは「ふーん。」とだけ答え、黙っていた。彼らは一層不安そうに顔を見合わせたが、しばらくして、ナットが場を取りなすように明るく言った。
「だけどさあ、ロボットがデータチップに反応して誤作動を起こすんだったら困るね。スペアの古典料理のデータブックも、見つかったら壊されちゃうかもよ?」
「うーん、どうだろう。」
スペアが低くうなる。ボルトも首を傾げて、
「それは、ないような気がする。現に、展望ルームのミニロボットは何も反応してなかった。それにいま気づいたけど、予備室の空チップも手つかずだった。あいつら、壊したかったら始めから壊してそうな気がする。」
「じゃあ、ロボットが壊したくなるチップと、そうでないチップがあるってこと? それはすごいや。ロボットにデータの好き嫌いがあったら面白いね。あり得ないけど。」
「あり得ないか?」
「あり得ないよー。ああ、それにしてもあのデータチップさえあればなあ。そうしたら、ロボットの好き嫌いなんて今頃分かったかも知れないのに。」
楽しげにナットが言うと、不意にボルトがにやっと笑った。
「知りたいか?」
「えっ。」
驚いて聞き返したナットの前で、ボルトは黙って上着のポケットに手を突っ込んだ。そして、ポケットから手を出した時には、指の間に一枚のチップをはさんでいた。展望ルームの照明を受け、小さなデータチップが緑色にきらきらと光る。
「え・・・えっ?」
ナットがびっくりして叫び、スペアも思わず立ち上がった。ボルトはにっこりと笑うと気取ったおじぎをひとつして、棒立ちになっているスペアの手にチップを握らせると、
「解析まかせた。」
ナットがすぐ走り寄り、スペアの手の中のチップを確認する。
「本物? でも、どうしてここにあるの?」
窓際へ歩いていたボルトはふっと笑うと、上着の右ポケットから大型の青いデータチップを取り出した。続いて左のポケットから銀色の小型のチップを、内ポケットから小さな黒いチップをと、まるで手品のように取り出していく。
ナットたちはあっけにとられてそれを見守った。取り出したデータチップを部屋の隅の丸テーブルに並べながら、
「ナットが通信を流してくれたから助かった。でもチップの種類まで分からなかったから、EQチップ、RQチップ、データブック用チップ、ミニチップと、備品室に行って取ってきたんだ。みんな空っぽのデータチップだけど。」
そう言って、ボルトはナットに笑いかけた。
「お前が発着場じゅう走りまわってロボットから守ってくれたチップだ、そうやすやすと渡すわけないだろ。」
「・・・それで、ボルトの上着があちこち固かったのか。立たせてくれた時、妙だなって思ったんだ。」
呆然とつぶやくナットの背後で、それまで黙って話を聞いていたパドが大声で笑いだした。
「なるほどな。そういう事かい。俺たちまですっかり騙されたって訳か。」
「騙した訳じゃない。聞かなかったろ。それ本物かとか。」
「そりゃそうだ。」
パドはまた笑いの発作に襲われ、つられてスペアとナットも笑った。
「やっと分かった。あんな時にどこへ寄り道してるのかと思ったら、チップを取りに行ってたのか。」
スペアの声に、「そういうこと。」とボルトも笑う。ひとしきり笑い終わると、パドはゆっくり立ち上がった。親しげにスペアの肩に手をかけながら、
「よし、ひとつその内容を見てみようじゃないか。もっともスペア、そいつをロボットに見つからないように気をつけろよ。また追いかけ回されたらたまらんからな。」
目だけは笑っていないパドの表情に、スペアは小さくうなずいた。
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