宇宙工場サブファイロット 04章 2つのチップ1
「やれやれ。ここも楽できる場所じゃあなさそうだ。」
展望ルームに着くと、さすがに疲れたようにパドはどっかりと近くの椅子に座り込んだ。
彼らはいつまた誤作動を起こしたロボットが現れるかと、ビームライフルを構えたパドを先頭に、おっかなびっくりここに戻ってきたのだった。しかし、実際は何も起こらなかった。通路近くにいた作業ロボットは何の異常も示さなかったし、中央通路の透明チューブからはいつも通り、忙しそうにロボットたちが働いている様子が見えた。つまり、誤作動を起こしたのはナットがデータチップを見つけた時、その側にいた十数台だけらしかった。
パドは無意識に胸ポケットに手を伸ばし、タバコを取り出そうとして手を止めた。その目の前に、水が注がれた花瓶が乱暴に突き出される。パドは花瓶をしばらく黙って眺めていたが、何も言わないでボルトからそれを受け取り、礼を言った。同じ丸テーブルを囲んで座っていたスペアとナットも花瓶を受け取る。
「ありがとボルト。」
彼女は軽くうなずくと、立ったまま水を飲んだ。深いため息の音に、ナットが驚いて振り返ると、隣でスペアががっくりとうなだれていた。
「スペア、大丈夫?」
「誤作動は完全に止めたと思ったのにな・・・。」
スペアは暗い顔を少し上げ、小さく続けた。
「確かにあの時、バグのあったコモンプログラム部分は動作しないよう、プログラムをロックしたんだ。もちろん応急的な処置だけど、あれで誤作動が起こるはずないのに。」
あの時とはもちろん、ロボットたちが一斉に誤作動を起こし、ステーション中の人間を宇宙に放り出した時のことである。ボルトは力なく椅子に座り込んでいるスペアに近づくと、水を飲みながら言った。
「お前の修正にミスがあるはずないよ。現に、発着場にいた他のロボットたちは誤作動を起こしてないみたいじゃないか。さっきすれ違ったロボットだって、全然普通だった。」
両手で大型の花瓶を抱えた、ナットも続ける。
「そうだよ。誤作動を起こしたのは、本当にあの十数台だけだったんだね。訳が分からないや。」
飲みにくそうに大きな花瓶から一口水を飲み、ふと思い出したようにボルトを見て、
「分からないって言ったらさ。ボルトがあのチップを渡しちゃうなんて、ちょっとびっくりしたよ。一番喜ぶだろうって思ったのに。」
「うん。でも、ロボットとステーション中追いかけっこなんてごめんなんだ。」
「それはそうだけどー。」
少し不満そうなナットに、顔を上げてスペアが口を挟んだ。
「あの状況じゃしょうがないさ。ナット、データチップはまた取ってこればいい。人工衛星のロボットの行動が解析できたら、今度はもっとうまく対応できるだろうし。」
ナットがしぶしぶうなずくと、それまで黙っていたパドが、ロボットがおかしくなるような予兆でもあったのかと尋ねた。ナットが困ったように首をかしげ、特に何もなかったと答えると、パドは花瓶をテーブルに置いてくつろいだ風に足を組み、世間話でも聞こうと言った態度で、具体的にどんな事をやっていたのかと聞いた。
「そうだね・・・。みんなと別れた後、曳航船の修理に取りかかったんだ。破損個所を調べて、ロボットに指示を出して。作業ロボットも問題なく動いていた。で、しばらくしたら、作業ロボットが不明のパーツがあるって言うんで、見たら破損した装甲板の間に小さなごみがはさまっていたんだ。人工衛星の破片だよ。で、その中にデータチップがあるのに気づいたんだ。僕がそれを取り上げたら、突然ロボットがそれを渡せって言ったんだ。」
パドはもちろん、スペアとボルトも真剣にナットの説明を聞いていた。スペアが低くつぶやく。
「やっぱりデータ・・・、データチップに異常反応するんだな。」
彼の隣に立っていたボルトも小さくうなずいた。パドがゆっくりと続ける。
「よほどそのデータを残しておきたくないんだな、ロボットどもは。」
「おっさん、ロボットには感情や思考はないよ。命令を実行するのに最低限必要な思考をするだけで。」
スペアがすぐに反論する。パドは目を閉じて片手を上げ、
「じゃあ訂正。データを破壊しろと命令した奴が、よほどデータを残しておきたくなかったってな。」
「パド。誰かが命令したわけじゃないよ。思考プログラムのバグのせいなんだって――」
「ほう・・・。ほんとにバグなのか?」
展望ルームは静まり返った。プログラムバグにしてはおかしな点が多いと、三人も薄々思っていたのだ。しかし、スペアがすぐに早口で続けた。
次回更新は2月中旬の予定です。




