宇宙工場サブファイロット 03章 誤作動の再発6
自分の部屋で解析をしていたスペアがドアから飛び出ると、まさにボルトとパドが彼の部屋の前に走って来たところだった。
「今のを聞いたか?」
スペアが叫ぶと、ボルトが素早くうなずいた。ナットは、チップを持った手をポケットの上に移動した時、中に入れていた通信端末のスイッチをひそかに押していたので、以後の会話は解析をしていたスペアや、ロボット工場を歩いていたボルトたちに筒抜けとなっていたのだ。彼らはすぐに、揃って発着場への通路をひた走った。
「いったいどういう事なんだ、また誤作動が起こるなんて!」
走りながらスペアが叫ぶ。
「今はそんなこと後だ。ナットの安全を確保。それが第一だ!」
ボルトが叫び返す。しかし、彼女は突然通路の真ん中で足を止めた。スペアとパドが振り返る。
「どうしたボルト?」
「先行ってて! すぐ追いかける。」
ボルトは一声叫ぶと、通路を引き返していってしまった。
事態が飲み込めず立ち止まるスペアを、パドが「行こう」と急かす。二人は移動チューブ帯に飛び乗った。チューブ内の移動ポットは、緩やかに下降していく。スペアはじっと表示パネルを見上げた。
「遅いなこのチューブは。」
重量のある機器も運べる大型チューブのため、下降はゆっくりだった。スペアは通信端末を胸ポケットから取り出して、
「いまどこだ、ナット。」
端末からナットの声が聞こえる。
「いま・・・、通風口Aの73近く。もうすぐ75の分岐点。」
「ロボットは追ってきてるのか?」
「うん、追ってきてる。ここに普通サイズのは入れないから、小型のが追ってきているみたい。」
息があがっているらしく、ナットの声が時々苦しげに切れる。
「データチップを渡したのにか。」
パドが、スペアの端末に口を近づけて尋ねる。
「ううん、僕まだ持ってるんだ。さっき投げたのは、ミニプラグなんだ。ロボットはいったんチップだと思ってそれを拾いに、行ったけど、すぐ違うって気づいたと思う。」
「ナット、チップをロボットに渡すんだ! このままじゃお前が危険だ。」
スペアが怒鳴ると、端末から声がした。
「分かってるよ、でもこんなの、絶対おかしい。行けるとこまで行くから。だめだったら渡しちゃう、ごめん!」
「ごめんじゃないよ、早く渡しちまえったら!」
するとパドが端末をスペアからひったくった。思わず睨みつけたスペアを軽く手をあげて制し、パドは冷静に、
「スペア、この通信はロボットも聞けるのか?」
と尋ねた。
「それはできない、ナットの送ってきたのはスクランブル通信だ。こっちも自動でそうなっているから、ロボットが聞くのは不可能!」
「解析はできるだろ。」
混乱と不安と、もどかしさでスペアは泣きそうになりながら、
「戦闘ロボットじゃないんだ、スクランブル解析機能なんて作業ロボットについてる訳ないだろ、おっさん!」
パドはうなずいて、端末を口に近づけた。
「よしナット、その通風口の出口はどこだ。どこに出る。」
「ええとね・・・」
通風口を非常扉でふさぎながら、ナットは話し続けた。扉を電子ロックした上で操作パネルをスパナで壊し、動作不能にしてから素早く周囲を見渡すと、
「ここどこだろ。ええと、そうか、もう少し走ったら発着場の入り口の、メイン通路のすぐ下に出るよ。」
「発着場の入り口の、メイン通路の下だな。分かった。スペア、俺たちがそこに行くまでどれだけかかる。」
「このチューブは発着場入り口のすぐ近くに出る。もう1センドもかからない。」
「ナット、聞いたな。1センドでそこに行く。お前はどれだけでそこに着ける。」
「同じくらいかな、ロボットに捕まらなければ。」
「了解した、気張って走れ、でも無理はするなよ!」
「分かった!」
パドは通信端末をスペアに返した。スペアはそれを受け取ると、一言、
「どうするつもりだおっさん。」
と低く尋ねた。パドはそれには答えず、
「聞いておきたいんだが、誤作動を起こしたロボットが、ナットを傷つける可能性はあるのか。」
のぞき込まれたスペアは、わずかにたじろいだが、やっと、
「ロボットはロボット制作者を傷つけたりしない。誤作動を起こしたとしても。――このあいだの事故の時も、ロボットは俺たちの仲間を船に詰めて放り出したけど、怪我をさせたりはしなかったはずだ。抵抗した仲間が、自分で擦り傷とか打ち身とかはしたかもしれない。でもロボットが積極的に人間を傷つけることはなかったと思う。」
「そうか。それなら少しは安心だな。」
静かに言って、パドはビームライフルを腰から素早く取り上げ、エネルギー残量を確認した。一方スペアは、呆然とそのライフルを見つめながら、
「いったい・・・何が起こってるんだ・・・ロボットに・・・。」
そうつぶやいた時、移動ポッドがきしみ、扉が開いた。
次の更新は翌日12:00の予定です。




