宇宙工場サブファイロット 03章 誤作動の再発5
スペア、ナット、ボルトの三人が行動を別にしたのは、久しぶりだった。
ロボットの誤作動が起こる前は、ほとんど互いの存在も知らなかった三人だったが、事故の後はたいてい、いつも行動を共にしていた。小さい頃から、常に大勢のロボット制作者たちに囲まれて仕事をしてきた彼らにとって、がらんとした人気のないステーションでひとりでいる、それも、する仕事もなく、という状態は、とても不安で落ち着かないものだったのである。どこか甘えん坊のところがあるナットは、特にだった。
しかし、いざ仕事となると話は別だった。そういった切り替えの速さは、この宇宙ステーションの人間に共通のものである。
ナットは発着場に出向くと、作業ロボットを従え、曳航船の修理に取りかかった。修理が必要な個所は把握しているので、具体的な指示をロボットに出していく。複雑な配線などは自らてきぱきと直した。曳航船の修理は驚くほどのスピードで進んでいた。
と、その時。
「ナット様、破損した機体部分に、不明のパーツが付着しています。」
青い装甲を修理していたロボットの一台が、ナットの方にアームを上げて報告した。
「不明のパーツ? どれ? このシップの設計図と部品一覧を、ちゃんとダウンロードしてないの?」
とがめるように言いながら、ナットが小型ロボットの元へ向かうと、そこはビームの集中砲火を受け、装甲に大きな亀裂が入った箇所だった。中に、細かい金属片が入っている。
「これはパーツじゃないよ。」
ズボンのポケットから、分厚い作業用手袋を取り出しながらナットは言った。
「宇宙ごみがはさまったんだ。破壊された人工衛星の破片かなんかだよ。あのあたり、ずいぶん宇宙ごみが浮いていたから。」
そして少し離れた所にいた、やや大きめの緑色のリーダー・ロボットを呼び寄せた。他の作業ロボットが一対のアームを持っているのに対し、これは三対の大小のアームを備え、かつ、頭部パーツもメインの両側に小型のものを二つ両側に備えていた。尻尾のような、第三の脚があるのも特徴的である。
「E5、この船は全部検査ずみだよね? 危険がないことを確認してある?」
「はい、もちろんすべて確認済みです。」
「じゃあ安心だ。取っちゃっていいよ。取ったのはそのボックスの中に・・・」
と言いかけて、ナットはふとごみの一つに目をとめた。
「あれ・・・。」
見覚えのある金属片が、ごみの中に光っている。ワイヤーなどの細かい宇宙ごみをどかしていくと、その奥にあったのは緑色に光る、一枚のデータチップだった。
「ボルトの欲しがってたデータチップだ。」
ナットは嬉しそうに声を上げた。どうやら、人工衛星が破壊された時に飛び散ったデータチップの一つが、偶然亀裂に挟まったらしい。彼は喜んでそれをつまみ上げたが、その頭に、ロボットの影が黒く落ちていった。
「それをお渡しください。ナット様。」
ナットが驚いて振り向くと、なぜか彼の周りに、作業ロボットが音もなく集まっていた。
「え・・・? 何だって?」
「そのデータチップをお渡しください。」
ナットはびっくりして言葉を失った。ロボットが人間の彼にそう命令するからには、ナットの身に危険があるということになる。
彼は手の中の緑色のチップを見て、それからロボットを見上げると、
「これは検査してないの?」
と聞いた。
「検査してあるはずです。」
「どこが危険なの?」
「危険はありません。」
ナットは当惑したまま、言った。
「危険がないんだったら、お前たちに渡す必要はないんじゃない。みんな、作業に戻って。」
しかし、ずらりと彼を取り囲んでいるロボットは、ぴくりとも動かなかった。「誤作動だ・・・誤作動が起こってる!」ナットはさっと青ざめた。
三対のアームを持つ緑色のロボットが、その一番長いアームをゆっくりとナットの方に伸ばしてきた。
「お渡しください、ナット様。」
ナットはチップを持った手を、ポケットの上に押し付けた。そして、
「お前たちは僕に、この見つけたデータチップを渡せって言うんだね? 何も危険はないのに。」
と、わずかに後ずさりながら、はっきりとした大声で言った。
「はい。お渡しください。」
「じゃあもし、僕が嫌だっていったら?」
ロボットは不気味に黙っていた。
「なんで答えないんだ。E5。」
ナットが聞くと、E5は複雑な形状のアームを、彼のほとんど目の前まで突き出した。
「お渡しくださらないのであれば、こちらから取りに行きます。」
ナットはロボットを睨んでいた。しかし、
「分かったよ。」
と言うと、思い切り向こうへ放り投げた。作業ロボットが一斉にそれを追いかける。ナットはすぐにクレーンのひとつに飛び移ると、全速力で駆け出した。
次回更新は翌日12:00の予定です。




