宇宙工場サブファイロット 03章 誤作動の再発4
「問題は、スペアに負担がかかりすぎる事だよね。どうしよう。」
おかしな食事(パドが炊いたご飯に、ロールケーキ、たくわん、サラミ)の後、彼らは広々とした中央通路に出て、思い思いに透明なチューブや手すりにもたれながら話していた。
ナットの言葉に、ボルトが隣のスペアを見て、
「人工衛星のロボットの動きを解析して、あいつらのプログラムがどうなっているか分析できるのはスペアだけだろ。悪いけど、それはお前に任せるしかないな。」
「3、4タイムか、もしかしたらもう少しかかるかもしれないけど、やってみる。何より、あいつらが人工衛星に留まっていると限らないからな。もしかしたらここまで追ってきて攻撃してくるかもしれない。解析は急いでやる。」
スペアが言うと、
「たぶん、それはないと思う。追ってくるならとっくに来ているだろ。ナット、どう思う。」
ボルトは向かいのナットを見た。
「そうだねえ。僕も、それはなさそうに思うな。ゆっくりやって平気だよ、きっと。でも、曳航船が取得した人工衛星のデータの解析も、適任はスペアだよね。スペアにばっかり仕事がいっちゃうね。」
スペアは何でもない様子で、「気にするなって」と答えた。実際、根を詰める仕事には慣れているのだ。ナットが言った。
「僕は、曳航船の修理を作業ロボットとやって来るよ。今日一日ぐらいで済むんじゃないかな。ボルトはどうするの?」
ボルトはちょっと困ったような顔になった。
「調整が必要になってるようなものはないからな。」
「お前はまだ休んでいた方がいいだろ。昨日の今日なんだから。」
スペアが言うと、
「ちょっと床に頭をぶつけただけだ。もうなんともない。」
不満そうにボルトが答える。しかし、何をするとも言い出さず、そのままおとなしく口を閉じていた。
「おっさんはどうする?」
透明なチューブ帯から、外の様子を見ていたパドにスペアが声をかける。パドは、ゆっくり振り向いた。
「さて、どうするかね。いろいろ気になる事はあるが、とりあえず、あの辺りでも散歩してみるかな。」
手すりにもたれ、横目で下を見ながらパドは言った。
「散歩? そうか、おっさんはまだこの宇宙ステーションのこと、良く知らないもんな。だったらミニロボットに案内させようか。」
パドは手をあげて、軽く遮るそぶりを見せた。
「危険な場所かどうかくらい自分で見当はつく。ロボットはいらないよ。」
「じゃあ決まり。昼ご飯は一緒に展望ルームで食べる?」
ナットがみんなを見渡して聞いたが、スペアは首を横に振った。
「いつ、きりが着くか分からないから。みんな適当に食べててくれ。」
ボルトがぶっきらぼうにまとめた。
「昼食は各自。夕飯はみんな適当にきりがついたとこで、展望ルームに来て一緒に食べればいいだろ。」
「オッケー。じゃあ、また夜にね。」
ナットは飛び跳ねるような陽気な足取りで、スペアと並んで仲良く歩いていった。
パドはタバコを取り出してくわえ、火はつけず、そのまま二人を見送った。そして、ボルトが自分を注意深く見ているのに気がついて、
「なんだい。よく見ろって、火はつけてないぜ。」
おどけた仕草で手をあげてみせる。ボルトは、黙ってパドの隣に来て、彼が見ていた辺りをじっと見下ろした。
「あんたが見ていたのはあそこなんじゃないか。」
そこは、周囲が壊滅状態になっているのに、そこだけ無傷の一角だった。パドがわずかに口の端をゆるめる。ボルトは手すりを両手でつかみ、独り言のように話し出した。
「あれは、私もずっと気になってるんだ。ロボットはプログラムのバグのせいで暴れて、そこら中のものを無差別に壊した。けど、ほんとは無差別じゃない。現に、あの辺りは臨時居住エリアのひとつだけど、ほとんど被害を受けてない。」
ボルトはパドに向き直ると、
「空気や、水の製造循環施設も見逃している。それに、エネルギー発電施設、食料・・・乾燥チップのだけど、製造施設も。ロボットは誤作動を起こして人間を追い出して、そこらじゅうを破壊したけど、このステーションで人間が生きていくのに必要な施設は、全部残してある。」
パドはゆっくりうなずいた。
「だけど、ロボット工場エリア、それにあちこちにあった情報センターは壊滅状態だ。もうロボットの大量生産は当分できない――いや、仲間たちが帰ってこなかったら、ここでは二度と作れない。仮に仲間たちが帰ってきても、前のように戦闘ロボットが大量に製造できるかどうか。私にも、分からないけど。」
いったん言葉を切って、彼女は視線を下げた。
そして、低い声でつぶやいた。
「このバグは何かおかしいんだ。」
パドはたばこをくわえ直すと、彼女とは反対側の景色を見ながら、なにげない調子で、
「ロボットが誤作動を起こして暴れたって聞いた時から、ちょっと気にはなっていた。お前たちの作るロボットの完璧さ、優秀さは、宇宙に知れ渡っているからな。」
そう言って、傍らのボルトに目を移した。ボルトは、自分のブーツのつま先を見つめている。
「そう――、あんたには悪いけど、私たちは・・・、サブファイロットの人間は、それを本当に誇りにしていたんだ。何のためのロボットなのかは考えてなかったけど。」
気まずそうに付け加えて、彼女は黙ったが、突然、顔を上げてパドの目をひたと見つめた。
「あんたにずっと聞きたいと思っていた。この宇宙ステーションの他で、誤作動を起こしたロボットに会うか、そんな話を聞いた事はあるか?」
ボルトは真剣な目をして尋ねた。
「いや、ないね。少なくとも俺は聞いていない。」
ゆっくりとパドがかぶりを振って答えると、彼女は小さく息を吐き、目を閉じた。
「ずっとそれを心配していたのか。」
静かに尋ねると、ボルトは目を閉じたままゆらゆらと首を振って、
「誤作動を起こしたロボットは、ステーション中の人間をありったけの船に詰めて、宇宙へほっぽりだしちまう。始めは人間を殺す戦闘ロボットを作っておいて、次は宇宙追放だ。当たり前だろ・・・。」
パドは手すりに寄りかかり、わざとのんきそうに話した。
「ま、その辺は正直俺にはよく分からないがな。ここに来るまで、ずいぶんひとりで飛んでいたし、通信装置もずいぶん前にいかれてたからね。」
そして、「参考にならなくて悪いな。」といたわるように言い足した。
「通信装置さえあればな・・・。それで思い出した。通信施設も軒並みアウトだった。」
乱暴に言ってボルトはしみじみ、ため息をついた。パドにぽーんと背を叩かれ、我に返ると、乱暴に長い髪をかき上げて、
「なんだったら私が案内しようか。その辺でも。」
「じゃ、お願いするかな。だが、ま、こみ入った話はこのへんにしとこう。どうもお前さんはここんとこを使いすぎるようだからな。」
相手の額をちょんと突き、パドは大股に歩き出した。ボルトはちょっと戸惑ったように突っ立っていたが、すぐ小走りにパドの後を追った。
次回更新は翌日12:00の予定です。




