宇宙工場サブファイロット 03章 誤作動の再発1
03章 誤作動の再発
ボルトは、救護室のベッドにのびていた。
「大丈夫か?」
スペアが心配そうにのぞき込む。彼は操縦はパドに、ロボットの攻撃でダメージを受けた船の緊急補修はナットに任せ、救護室に残ったのだった。
「ん・・・。」
ボルトがゆっくり目を開ける。救護室の布団から両手を出し、それをぼんやり見て、
「手はちゃんとついている。大丈夫だと思うけど。」
力なく言う相手の手を握ってから、「ほら」と言って、スペアは先ほど操縦室からつかんできたものをベッドにそっと乗せた。
「チェック。よかった。」
ヘビはボルトを見ると、嬉しそうにちろちろと舌を出した。
「ありがとうスペア。パドとナットは?」
「大丈夫だ。パドは操縦室にいる。ナットは船の左舷の修理に出かけた。ふたりとも無事だから。」
「そうか。」
ボルトは安心したように深く枕に顔を埋めた。
「お前のおかげだ。ありがとな。」
スペアは照明を落とし、ゆっくり休むよう伝えて立ち上がった。ボルトは目を閉じ、その体の上にヘビがおとなしくとぐろを巻く。
「ヘビ、重くないか?」
「平気。」
スペアが操縦室に戻ると、そこにいた二人がすぐ振り向いた。
「ボルトはどう?」
心配そうに尋ねるナットに、スペアは自分の席に座りながら、
「ヘビと一緒に寝てる。大丈夫だ。まだ元気はないけど、衝撃波は直撃してないんだし、オートメディカルチェックの値も正常だから。」
「ああよかった。」
パドもほっとしたように、
「それを聞いて安心した。」
と続ける。
「あのはねっかえりに何かあったら、俺たちみんな、あのヘビに噛まれてただろうからな。」
「ボルトははねっかえってなんかいないよ。ねえ。」
「うん、あいつの髪はめずらしいぐらいまっすぐだよな。」
ナットとスペアが見当違いの受け答えをしたが、パドは微笑んだだけで何も言わなかった。
「ところで、おっさん、船はちゃんと動きそうか?」
スペアがパドを振り返る。
「左翼にだいぶダメージがあったが、ナットがうまく修理してくれたからな。これならステーションまでは問題なく飛んでいけるよ。」
そう言って、パドが操縦桿を少し引く。ナットは、先ほど船外に出て、左翼やその周囲のダメージをチェックし、必要な応急処置を施していた。こういった修理なら、まさにナットの独壇場である。通常ならあれだけの攻撃を受ければ、操縦に影響が出るのは避けられないのだが、彼はごく短時間で船の状態を回復させていた。
パドの言葉に、ナットは嬉しそうににこっと笑って、
「この程度の修理だったら、いつでもまかせてよ。」
「心強いな。これだけ安定していればもう少しスピードも出せそうだ。なるべく急いで戻って、ボルトを医者に見せないと――、いや、そうか、ステーションに医者はいないんだったな。」
パドが眉をひそめる。
「大丈夫だって、おっさん。医療班は誰もいないけど、代わりができる医療ロボットがいるよ。メディカルセンターも、会議室に近い第3の方はロボットに壊されていないから。あそこに運べばいい。」
するとナットが、
「第3メディカルセンターのロボットは診察が粗いよ。僕、前に行った事がある。あそこのはいっこ旧型なんだ。第1か2のやつに診せようよ。」
「そうなのか。じゃあそうしよう。」
二人の会話を聞いていたパドが首を振った。
「やれやれ・・・。医者もロボットときたか。たまらんな。」
どう返事したらいいのか分からず、しばらくスペアたちは黙っていたが、ナットがようやく口を開いた。
「それにしても危なかったね。人工衛星に戦闘ロボットがいるなんて、思いもしなかった。」
スペアもうなずく。パドが無意識に胸ポケットをさぐり、タバコを取りだそうとした手を止めて、
「人工衛星に、ロボットがいるなんて、あのロボットどもは一言も言わなかった、だろ?」
「それもそうだね。でも、それは僕たちが聞かなかったからだよ。」
ナットがこともなげに答えたが、パドは厳しい顔をして正面のモニターを睨んでいる。ややあって、スペアが低く言った。
「ロボットたちに質問する時は、もっと気をつけなきゃいけないな。関連ある情報は全部話すように指示しないと・・・。もう少しでボルトが危ないところだったんだ。それに、俺たちだって殺されそうになったし。」
そして、視線を落とすと、つぶやいた。「あいつらはなんだったんだろう。」
「え? 何だったって?」
「誤作動を起こしたロボットじゃなかった、って事だ。プログラムのバクで暴れているだけだったら、修正プログラムを受信したら止まるはずじゃないか。現に、他の・・・ステーション上のロボットは、そうやって止まったんだ。」
自分の膝を見つめて、スペアは続けた。「それに、誤作動を起こしたんだったら、俺たちを曳航船に詰めて宇宙へ放り出そうとするはずだ。他のロボットはみんなそう動作している。でも、あいつらは俺たちをビーム砲で攻撃した。」
そう言って膝を両手で強く押さえ、目を閉じた。ロボット行動のプログラムもする彼には、本当に訳が分からなくなっていたのだ。
パドを挟んで、反対側の席でしばらく考えていたナットが、
「あのロボット。僕ら以上に優先順位のある人間から命令を受けていたんだよ。きっと。僕らを攻撃するように・・・。」
「俺たちが行くのがどうして分かる?」
不審げに答えるスペアに、パドがゆっくり話しかけた。
「どうだい。宇宙ステーションにいるロボットのどいつかが、人工衛星のロボットに命令したってのは。」
「おっさん、それはないよ。ロボットはリーダー・ロボットの命令を受けても、例外があるにしても、それがたとえどんな命令だったとしても、人間の命令の方が上だ。俺はロボットに攻撃をやめるよう命令したんだから、それを受け付けないとしたら俺以上に優先順位のある人間が命令していたとしか思えない。でも・・・おかしい。宇宙船に詰められてステーションの外に出された人間なら生死不明だから、順位はどんな高くても俺たちより下がるはずなんだ。」
「ねえ、ひとつ、気になったんだけど。」
ナットが副操縦席から身を乗り出す。
「あのロボットだけど、僕たちの修正プログラムを受信してないみたいだった。スペアの命令も無視してた。命令が、永久ロックされてたんじゃないかな。」
「後から変更が出来ないように、ロックされてたって言いたいのか?」
「そう。戦闘ロボットに、それをやっちゃいけないっていうのは知ってるけど。もっと簡単なロボット相手だったら、それはよくやることだよ。」
「戦闘ロボットへの命令をロックだなんて。いったい誰がそんなこと出来る。」
「だから、そのロボットを配置したり、それからその人工衛星を密かに作って飛ばしたり、データを運ばせたりしてた奴だろうよ。」
のんきそうに、だが鋭い目をして言うパドの顔を、スペアとナットは凝視した。二人は顔を見合わせる。
「あの人工衛星に近づくものは、大統領の部下以外、誰であろうと攻撃しろって命令してたって言いたいのか? 大統領が? おっさん・・・。」
「そう聞こえなかったかな。」
スペアは、長いあいだ黙っていた。そして、
「大統領の行方を捜さないとだな。何だか、本当によく分からなくなってきた。」
曳航船のモニターには、近づきつつある宇宙ステーションの発着場が映り始めていた。
次回更新は1/31(12:00)の予定です。




