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宇宙工場サブファイロット 01章 謎の宇宙船2

 発着場は、宇宙ステーション下部の、突き出た場所にあった。上空の二重特殊シールドは、宇宙ステーション工場には不似合いなほど高性能なもので、運搬船などが惑星に離発着するのと同様に、出入りが可能な最上級のものである。二重シールドの向こうには、輝く星々と赤い星雲が遠く広がっている。


 三人が発着場に着くと、そこはつんざくような轟音に包まれていた。もっとも彼らは、ちゃんと無線付きの耳当てを付けて来ているので、問題はない。ボルトの耳当てだけ他の二人とデザインが違うが、彼女はその優れた聴覚によって、機械にも測定できないような微妙なエネルギーの流れや、不具合などを判別できるのだった。よって、耳当ても特殊なものになる。


「スペア様、ナット様、ボルト様。お待ちしていました。どうぞこちらへ。」

 先ほどのA3が三人を見つけて寄ってきた。マルチタイプの戦闘ロボット――すなわち、作戦立案から状況判断、戦闘もこなせるタイプで、ロボット軍のリーダーを務めることが多い型である。一応、中型シリーズに属するが、それでもスペアの身長の三倍以上はあった。特徴的な肩のデザインが目を引くが、脚のカーブも実に独特である。


「だいぶ形になってきたな。お前たちもずいぶん派手に壊してくれたもんだ。」

「はあ、それについては私どもの責任ではありません。お忘れではないですか、スペア様。あれは私どもの意志ではなく、思考プログラムのバグのせいです。」

「そのバグが、お前たちに破壊衝動をもたらした時、どうしてそれを抑えなかった?」

 作業スーツの上から羽織った、だぶだぶの上着のポケットに両手を突っ込み、ボルトがつまらなそうに尋ねた。

「分かりません。そういったプログラムは、私達に搭載されていませんので。」

 A3は巨大な両腕を広げ、弁明するような動きをしてみせた。

「ごもっともだな。で、曳航用シップは?」

「あちらです。いつでも飛べるように調整済みです。」


 三人と赤いロボットは、けたたましい音をたてながら修理を続ける大小の作業ロボットの間を抜け、発着場の奥にある格納庫へと向かった。轟音が遠ざかり、耳当てを外す。

 格納庫はまだ生々しい破壊の跡が残っており、宇宙船の残骸が散乱していた。ところどころスペースが空いているのは、おそらく人間たちを押し込め放り出した、中型船や小型船の泊まっていた跡なのだろう。

そしてすみの方に、流線型の真新しい曳航用シップが一台、静かに辺りの照明を反射して青く光っていた。


「おおー、新しいデザインだねえ。いいな。」

 ナットが小走りで船に駆け寄り、嬉しそうにボディを撫でた。彼は、作業ロボットにも出来ないような複雑な組み立てや修理を担当する製造士で、若輩ながらステーションきっての腕を誇っていた。しかし、新たな設計やデザインとなると、もちろん設計室の注目の若手、スペアの出番である。


「既存のBW11型を改良してみた。あれは二人操縦だけど、一人でも操縦できるよう改良してある。BW17Fの垂直推力が付いていて、ちゃんとした発着場でなくても少しのスペースで発着できる仕組みだ。操縦室の他に、リビングルームと食料庫と救護室、宇宙バス、トイレつき。それから個室が三つと予備が一つ。それぞれベッドと布団を完備。」

「いいねー!」

 ナットははねまわって喜んでいる。

「もちろん、軽金属のくずなんかじゃなく、本物の綿のはいった布団でね?」

 目を輝かせてのぞき込むと、

「さあ、分からないな。でも、大統領邸近くの倉庫からかっぱ・・・頂いてきた、例のふわふわした奴が入れてあるはずさ。」

「おお・・・感激!」

「ナット、お前ってほんとにオールドものが好きだなあ。」

 ボルトが呆れたように言った。彼らの知識では、オールドものとはだいたい、大統領邸にあるもの、という事になっている。一般には、この宇宙ステーションで生産できない貴重な輸入物を指すことが多い言葉だ。

「まあねー。ボルトもハンモックなんかで寝ないで、布団で寝てみたらいいのに。」

「あれが一番よく寝られるんだ。」

 彼女が属する調整室は、変わり者が多いとされる部署だが、さすがにハンモックを愛用している者はめずらしい。さらに付け加えると、彼女が植物をそばに置きたがる性質も、風変わりなものである。


「じゃ、中に入ってエンジンの調子を見てみるか。」

「待った。」

 ボルトが突然腕を上げ、スペアを遮った。

「A3、アンカーはついているか? いない? すぐつけさせろ。――うん、それでよし。そしたらそこのお前、中に入ってエンジンをかけてみな。ちゃんと推力0のスタンバイモードでやれよ。」

 彼女は近くを走行していた小型作業ロボットを指差し、鋭く命じた。

「どうしたボルト?」

ボルトは長い黒髪をうっとおしそうにかき上げた。

「三人が乗り込んだところで、そのまま追放されちゃたまらん。」

「まさかぁ。もうバグは完全に直したんだよ。知ってるじゃん。」

 ナットが驚いて振り返ったが、彼女は答えなかった。しばらくして、曳航船のエンジンが爆音を上げ、辺りが振動し始めた。船の後部から白い光がはじけ飛ぶ。


「・・・調子いいみたいだね。」

 ナットが楽しげに腕を頭の後ろで組む。スペアも「そうだな」と言ってボルトを振り、彼女も黙ってうなずいた。先程の小型ロボットが船から降りてくると、A3は三人を振り返って軽く身をかがめるような動きをした。

「いかがでしょうか?」

「うん。よくやった。じゃ後は俺たちが見ておくから、お前は発着場の修理の指揮を続けて頼む。」

「了解しました。」

「後で、定例のステーション会議を開くから。中央会議室に各ロボット長を集めてくれ。そうだな、0.3タイム後に。」

「かしこまりました。」

 A3は駆動音を響かせ、小型の作業ロボットを伴って去っていった。

「じゃあ今度こそ中を見てみるか。お前はどう・・・、ボルト?」

「お待たせ。」

 周囲に他のロボットがいないか見回っていたボルトが姿を現すと、ナットは不審そうに、スペアの後ろから首を伸ばした。

「バグは直したんだって。ロボットたちが僕たちを追放するわけがないよ。何疑ってるの。」


「そのバグだけど。思考プログラムにあったんだろ。私にはよく分からないけど、ロボットのもっとも基本なところの、コモン領域に。」

「うん。コモン領域はこのステーションが生産する全ロボットに共通してるからね。全部のロボットに誤作動が起こっちゃったのさ。」

「そんなところ、スペアにだって設計できないだろ。」

 スペアは肩をちょっとすくめて、

「設計室にいた誰も、そんな領域関わっていないと思うな。あれはたぶん、『レジェンドさん』の仕事だと思う。」


 レジェンドというのは、このステーションでは伝説となっている、天才的なロボット製作者たちの総称である。その存在は謎に包まれており、何人いて、いまどこで何をしているのかも分からない――いや、分からなかった、というべきだろう。今は追放された、宇宙船のどれかに乗っているはずだから。まだ、彼らが存命していればだが。

「なんでバグがあったんだろう。」

 ボルトが低くつぶやいた。

「それは伝説的プログラマーたちにも、ミスがあったって事でしょ。ちょっと信じられないけどさ。」



 三人は曳航船の中を見回り、スペアの設計にすっかり感心し、満足した。これでもしその気になれば、いつでも宇宙に出て仲間の船を探しに行くなり、曳航して帰るなり、何もせずに帰るなり、できる訳だ。

 なお、スペアの部屋はごく一般的な、ステーション式のシンプルなデザインだったが、ナットの部屋には大統領邸の倉庫から持ち出された、オールドものの家具が運び込まれていた。(彼らは大統領が帰還するかどうかは微妙と考え、探検がてらに大統領邸に行っては、色々なものを勝手に拝借していた。)

 そのうえなんと、本物の「木の柱」までが部屋の内装に使われていた。使われ方がすごかったのだけれども。部屋の真ん中に縦に一本、横に一本、十字のように部屋を横切っている。部屋の隅のは意味もなく、斜めに天井に突き刺さっていた。しかし、こういうものに目がないナットは柱を撫でさすって喜び、スペアに抱きつきかねないほど喜んだ。


 一方、ボルトの部屋も、彼女の趣味をよく飲み込んで、独特の雰囲気に仕上がっていた。大統領邸にあっためずらしい植物の鉢が置かれ、奥には頑丈なハンモックが揺れている。そして、きわめつけには、ヘビがいた。副大統領のご自慢のペットだったやつである。ちゃんと専用に小部屋がしきられ、餌と水の出る装置もあつらえてあった。ボルトは抱きつきこそしなかったが、普段冷静な顔をくずして目を細め、ヘビを腕に乗せたりした。(副大統領のヘビは手乗りだったので。)



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