宇宙工場サブファイロット 02章 データ人工衛星10
「それもそうだな。何か、データに特に反応するような回路につながったんだろうか、破壊思考が。でも妙だな。プログラムを確認しないと何とも言えないけど、そんなこと、ちょっとありえない気がする。」
スペアも首を傾げる。パドは黙って彼らの話を聞いていたが、
「奴ら、ロボットにとって、残ってちゃ都合の悪いデータがあったんじゃないのかい。」
と静かに口を挟んだ。スペアとナットは驚いて、
「都合の悪いって・・・。ロボットはそんな判断はしないよ。ロボット自身にとって都合がいいとか悪いとか、そんな判断するプログラムは入っていないんだ。」
「ふーん、なるほどね。ロボットは命令を受けるだけ、その善し悪しは判断されたら困るっていう訳かい。」
「まあそうなるのかな・・・。あまり、よく分からないけど。」
自信なさそうに答えるスペアに、パドはちょっと肩をすくめて、また前のモニターに目をやった。細かい残骸、おそらくは破壊された人工衛星の破片だろうが、そういったものがちらちらとモニターにも映り始めている。
「だいぶ近づいてきたな。この船、シールドは付いているのか?」
「うん、この速度なら、直接破片が当たっても問題ないくらいに丈夫に造ってあるけど、シールドも万全。ナット、そっちのパネルだ。」
「えっと、これ?」
「そうそう。」
「開けるよ。シールドレベルはいくつにしたらいい?」
「30くらいかな。ビーム砲を相手にするわけじゃなし。」
ナットがパネルを操作すると、曳航船は美しい桃色の光にあわく包まれた。
「すごい、搭載型ロボットだって、こんなクラスのシールドついてないよ!」
嬉しそうにナットが叫ぶ。製造室の彼には、この桃色の光が、最も強力かつめったに装備される事のない、SATR2シリウス型シールドということがすぐに分かったのだ。スペアがナットを見て、
「何があるか分からないからな。装備は丈夫めにしてあるんだ。」
と言うと、パドはちょっとあきれたように、
「丈夫めねえ。スペア、いったいこの手の光子シールドが、おいくらぐらいするのか、ご存じで?」
「えっ、値段? 時間当たりの消費エネルギーなら分かるけど・・・。」
スペアは当惑してナットを振り返ったが、彼もきょとんとしているだけで、ボルトは知らん顔でヘビをなでている。仕方がないので、
「知らないけど・・・、いくらぐらいなんだ?」
と聞くと、
「まあざっと、ナットの骨董コレクションを全部売っても、シールド代の一万分の一にもならないだろうねえ。」
あっけらかんと答えたパドに、ナットがさすがに目をむいた。
「そんなにー?」
パドはもっともらしくうなずき、ナットは椅子にへなへなと身を沈めたが、パドもいい加減なものである。実際は、このシールドを買おうと思ったら、ナットのコレクションで十分おつりが来る。(ただし、大統領邸から持ち出した分を含めて。彼のコレクションは宇宙有数の富豪レベルに達していたのだった。)
そんな事を話している間に、曳航船は、破壊された人工衛星に近づいた。
人工衛星は、想像していたよりずっと大きかったらしい。右上部がきれいに吹き飛ばされており、右下部、左下部にも大きな破壊の跡がみえる。それでもかなりの部分が残っており、壊れた塔や建物、通路のようなものまでスクリーンには映っていた。
人工衛星の周りには破壊されて飛び散った残骸が、大から小まで、数え切れないほど広い範囲に浮遊している。
「建物が――、すこし残っているように見えるけど。」
ボルトがじっと目を凝らして言う。
「うん。通路もある。それもたくさん。」
ナットも意外そうに続けた。
「どうするボルト? 浮遊している破片をまず回収するか? それとも、人工衛星に行ってみるか。何かのデータが残っているかどうか分からないけど。」
スペアが後ろを振り向いて聞くと、
「うーん、よく分からないな。でも、まとまったデータがあるかもしれないから・・・、本体の方にまず行ってみたい。」
「よし、じゃあもっと寄るぞ。」
パドが操縦桿をまわすと、あわい桃色のシールドに包まれた曳航船は、ゆるやかなカーブを描いて人工衛星に接近していった。
「スペア、見えるか? 左上の方は、比較的まとまって形が残っている。その真ん中あたりに灰色の広場のような広いスペースがあるだろう。あそこに着陸してみるぞ。いいか?」
「うん。でもおっさん、大丈夫か?」
「大丈夫。操縦だったらまかせておけって。」
四人の乗った曳航船は、静かに広いスペースのあるエリアへと下降していった。突然、ナットが叫ぶ。
「ねえ、ここ、空気維持施設がある!」
スクリーンに映った建物の一つを、彼は指さした。スペアも思わず腰を浮かして、
「本当だ! 小さいけど・・・確かにそうだ。ここには、空気がある――、いや、あったんだ。少なくとも建物のどれかには、空気が送られていたんだ。でも、なぜ。」
「サルロイさんのためじゃないのか。」
ボルトが低く言う。パドも重くうなずいた。そして言った。
「着陸するぜ。席につけ、スペア。」
みんなが席について、固定ベルトをしめるのを確認すると、パドはゆっくりと、静まりかえった人工衛星の広場に曳航船を着陸させた。広場のまわりには、黒々と影を落として破壊を免れた建物がいくつもそびえている。
「さて、どうする?」
パドがスペアを見る。スペアはちょっと考え、ナットが先に答えた。
「とにかく降りてみようよ。空気や温度が維持されているかどうか分からないから、宇宙服を着ていけばいいよ。」
「そうだな。センサーにも、何かが動いているような反応はない。たぶん、空気なんかはないだろう。あったとしても、どの建物に行っているか分からないしな。よし、じゃあ宇宙服を着て降りるとしよう。」
スペアとナット、パドは席を立った。しかし、ボルトは席を立たない。スペアは不思議そうに彼女を振り返って、
「ボルト? 行かないのか?」
「何があるか分からないから、私はここに残る。まかせた。」
スペアは意外そうな顔をしたが、
「そうか? じゃあ待っててくれ。簡単に辺りを調べて、なるべく早く戻るから。」
と、先に出ていった二人を小走りに追った。
次回更新は1/27(12:00)の予定です。




