宇宙工場サブファイロット 02章 データ人工衛星6
「そんなのお前が責任感じたって、しょうがないだろ。ロボット制作に関わった、このステーション全部の人間のせいなんだから。」
中央データルームは、天井の一部が吹き抜けてしまったためか、空気がすこし動いている。どこからか吹き込む風が、スペアの髪と短い上着の裾をひるがえして光らせた。
「俺は、自分の設計したロボットが設計通りに動くとどうなるのかなんて、全然考えていなかったんだ。」
今にも泣きだしそうな彼の様子に、ボルトがわざと明るく続けた。
「それだったら、私だって一緒さ。誤作動が起こらなかったら、一生考えなかったかもな。それで――」いったん口をつぐんだが、すぐ、
「それで気になるんだ。なんとかここを修復して、ほんの部分データでもいいから復旧できないか? たとえばだけど、ここを念入りに捜索して、そういうデータを拾いつつ、残骸を片付けるロボットのプログラムなんか設計してくれっていったら、お前できるか?」
「何だって?」
スペアはびっくりしてボルトを見た。ボルトの長い髪も風にあおられる。彼女はじゃまくさそうにそれを後ろへやると、
「中央データルームには、バグがあったコモン領域に関する履歴データと、それにレジェンドさんの記録があったはずなんだ。重要データはたいていここにある。」
スペアはますます驚いて続けた。
「それはないだろ。レジェンドさんに関するデータが、全部失われているのはお前だって知ってるだろ。コモン領域にしたって、あれは完璧なプログラムだから、変更履歴もないはずだ。設計室でだってあれは誰も触らないんだから。」
「そう。でも、完璧なバグがあったプログラムだ。」
「そうだったな。でも、やっぱりデータはないと思うよ。確かにここは集積所みたいなところだから、いろんなデータがあっただろうけど、そんな記録があったら誰も気づかないはずないだろう?」
「うーん・・・。」
ボルトはため息をついて、首をゆらゆらと左右に振った。納得がいくまで、ずっと首をゆらりゆらりと振っているつもりらしいので、
「いや、止めろよ。首を揺らしたってデータは出てこないよ。」
「んー・・・。」
強引に頭を押さえたが、ボルトはなお、
「絶対どこかにあるはずなんだ。このサブファイロットで、データが失われるなんて、考えられないぞー。どんなデータも最低五回はバックアップを取っているはずなんだー。」
この時、まだスペアは知らなかったが、ボルトは一時期、データのバックアップ作業を担当していた事があったのだ。一日中、データのコピーと送信という、退屈かつ間違いの許されない仕事をしていた彼女にとって、データが失われるなどあり得ない事だったのである。スペアは、両手でボルトの頭を押さえつけると、
「やめろって。困ったなあ。他にデータがあるとしたら、大統領邸のバックアップ・ルームだけど、あそこがどうなったかは皆で見ただろ? あとは個々のルームだが、みんなきれいに壊されているのを確認したし、中継センターもあのざまなんだから。もうデータのありそうな場所なんてな・・・」
不意に言葉を切ったスペアに、ボルトは深くおじきするように乱暴に頭を振って、彼の手を振りほどいた。
「スペア。どこか、まだデータがある場所を知ってるのか?」
「いや・・・。俺も見た事はないんだが、ステーションの外に、データを保存している場所があるとかいう話。聞いた事ないか?」
「いや・・・? ない。」
スペアは何か思い出そうと、じっと廃墟の天井を見据え、
「なんだっけな? 思い出せない。どこで聞いたんだろう。」
「ステーションの外・・・。」
ボルトは低くつぶやいた。
「すると宇宙空間か。――そう、どこかに人工衛星があるとかないとか、聞いた気がする。それの事か。」
勢い込んで聞く。
「どうだろう。それは、俺は知らない。」
「ナットにも聞いてみよう。あいつが何か知っているかも知れない。ロボット達も何か情報を持ってるかもな。よし、リーダー・ロボットを集合させよう。」
そう言いながらボルトはもう中央ルームを走り出ていた。あわててスペアも残骸をよけつつ、後を追って走る。
二人が駆け抜けた後には、細かい破片がきらきらとしばらく舞っていた。
次回更新は1/13の予定です。




