宇宙工場サブファイロット 02章 データ人工衛星5
中央データルームは、もっともロボットが暴れて、破壊の限りを尽くした場所のひとつである。天井には大穴が空き、構造材がむきだしになっている。時折、ぽろぽろと何かが落ちてきて、半分壊れた照明の前にきらきらと軌跡を描いていた。
スペアとここに来たボルトは、困ったように目の前の光景を眺めていた。なにしろ、目の前は巨大なクレーターなのだ。
彼女はしばらく黙っていたが、隣のスペアを振り向いて言った。
「ここの修復をさせるとしたら、どのくらいかかると思う。スペア。」
スペアは、自分の部屋にふらりとやって来たボルトが、ここ、中央データルームに行くところだと言うので、まだ部屋から出る気分でなかったものの、危険すぎると思い、一緒に付いて来たのである。
「修復も何も、ここは修復不可能だろう。別の場所に新しくデータルームを作る以外、どうしようもないんじゃないか。」
そう言いながら、目の前にあった残骸のひとつに何気なく手を伸ばして触れると、その瓦礫は彼らの方に崩れてきたので、あわてて二人は後ろに飛び退いた。もうもうと煙がたち、二人は咳き込む。
「もう帰ろう。こんな所は危険だ。」
スペアはボルトのだぶだぶした上着を引っ張った。しかし、彼女は動こうとせず、諦められない様子でデータルームの残骸を見ている。スペアは不審そうに尋ねた。
「ボルト。なんでこんな所にこだわるんだ?」
ボルトは黙っていた。しばらくそのまま廃墟を眺めていたが、ゆっくりスペアを振り返ると、
「スペア。実は、ずっと気になってる事があるんだ。」
「何だよ?」
ボルトは困ったように目を瞬いた。珍しく、視線をそらして何か考え込んでいる。スペアはそんなボルトの横顔を見ていたが、大穴の空いたルームの天井の方に視線を移すと、
「お前のいる調整室って、ロボットの最終チェックが主な仕事だったよな。」
「何だよ突然。」
ボルトが眉をひそめた。
「全部、部品が設計通りに組み上がっても、誤作動することもあるし、微調整が必要になるロボットもある・・・だろ?」
「うん。」
「そういう時は、結果から、その原因を探していって突き止めるんだよな。そんな話を聞いた事がある。設計室は、逆だ。何もないところから作っていって、結果としてロボットや船が出来上がるんだから。」
スペアは、遥か彼方まで続く、残骸に話しかけるように続けた。
「調整室のことは、ロボット製造のなかじゃ楽な仕事で、格下っぽく言ってる連中が設計室には多かったけど、思慮深さっていうか、そういう点では設計室と変わらない――どころか、そっちの方が上だったのかもしれないな。」
ふっとボルトが笑う。
「ふーん。設計室ではそんな風に言ってたんだ。それならおあいこ。調整室でも、『あの青白いひょろひょろした、何も分かってない連中』ってのが、私たちの決まり文句だった。」
この青白い、というのは顔色ばかりでなく、調整士のスーツの色のことでもある。現に今もスペアはそれを身につけているが、階級によってデザインに違いがあるものの、ふちどりのあるブルーの上着、光が当たるときらめく素材で出来たその上着は、この宇宙ステーションではちょっとした憧れの的なのだ。
ボルトはふふっと笑ったが、スペアの方はまだ、笑う気分になれずにいた。
「ボルト、お前、前からいろいろ気にしてたよな。ロボットを造った結果がどうなるだろうだとか、何人殺したんだろうだとか。俺は、そんな事考えたこともなかった。でも、その結果が、パドのおっさんなんだよな。」
スペアは暗い目で、じっと前を見据えていて話している。ボルトは同情するように少し首を傾けると、乱暴に髪をかきあげた。
次回更新は1/9の予定です。




