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宇宙工場サブファイロット 02章 データ人工衛星3

 おかしな食事の後、パドの宇宙船の修理のため、三人とパドは発着場の奥にある格納庫へと向かった。

 暗い緑色の大小の作業ロボットたちが、ナットの指示に従い、粗末な銀色のエンジンパネルを器用に外していく。汚れた外観のパドの船だったが、中も相当酷使したとみえ、ぼろぼろの状態であることがひと目で見て取れた。


「よくこれで事故にならなかったな、おっさん。」

 ロボットたちに混じって、スペアが中をのぞきこむ。ナットとボルトも同感のようで、揃ってうなずいた。

「いったい、最後に整備したのはいつなの?」

 手袋をはめながら、ナットが尋ねる。

「さあねえ。ちょっと思い出せんな。ま、最後に寄った宇宙ステーションでも、似たような事は言われたがね。」

 両手を汚れたパイロットスーツのポケットに突っ込み、答えるパドを、ボルトはじっと見上げていたが、

「あんたが私たちのステーションを恨みに思って、皆殺しにするためここに来ようとしたのは分かる。でも、こんな船で、こんな状態で、もしかしたらここまでたどり着けないかも知れないとは思わなかったのか?」

 すると、パドも振り返ってボルトを見た。しばらくの間ふたりは黙って見合っていたが、やがてパドが肩をすくめ、おどけたように手を広げた。

「なんとかなると思ったのさ。ここの位置だって、まあ分かったのは奇跡的と言ってよかったぜ。運があれば、たいていの事はうまくいくってことだな。」


「パネルの撤去が終わりました。」

 湾曲したアームを挨拶するように少し上げ、作業ロボットの一台が彼らに近寄ってきた。

「ん、ご苦労さん。」

 ナットが言うと、

「次の命令をどうぞ。」

 作業用のロボットたちは、彼らの前に整列している。

「とりあえず、何もないかな。それぞれの持ち場に戻ってよし。」

「了解しました。失礼します。」

 作業ロボットたちは、駆動音を響かせて去っていった。一列になって格納庫から出ていくロボットを、パドは目で追って、

「人間の言う事は何でも聞くのか、あいつらは。」

 あちこち焦げ付き、場所によっては変形しているエンジンを、早速点検し始めていたナットが、振り向いて答えた。

「基本的にね。優先順位の高い他の人から、別の命令を受けてなかったら。あと、非優先になるときもあるし。」

「非優先って?」


 ナットと一緒に、大きなエンジンの下にもぐりこんでいたスペアが、顔をちょっと出して、

「たとえばもし、今ロボットに誰か命令して、エンジンを動かすよう言ったら、エンジンの下にいる俺やナットが危険になるだろ? ロボット制作者が事故にあったりしたら、ロボットの維持に支障が出る。だからそういう時は、命令が非優先になるんだ。」

「ロボットは命令相手に確認して、危険があるから、僕やスペアを移動するって言う。それで僕たちがいなくなって、安全になったことを確認できたら、はじめて非優先が解けて命令に従えるってわけ。」

「ふーん。」

「おっさん、すごい改造してるな、これ。こんな小型船の、それもこんなエンジンルームによくこれだけのエンジンを詰め込んだな。」

「配線がぐちゃぐちゃになってる。うわー見て。もしこんなこと僕がやったら、大目玉くらっちゃうよ。これ見て。冷却装置が斜めになってるよ。」

「ありえないな。信じられない。」

 エンジン横のエネルギーパネルを見ていたボルトも、あきれたように続ける。

「ところでYM201パーツは? あれがいかれてると思うんだけど。だいたいどこだ?」

「このへんにはないよ。スペアの方じゃない?」

 三人は無駄な動きもなく、てきぱきとエンジン周りをチェックをしていく。そんな様子を、パドは離れて見ていた。


 突然、パドが言った。

「今、エンジンを動かすよう、俺がロボットに命令したら、お前たちが危険になるから、ロボットは言う事を聞かないだろ。じゃ、もしそこにいるのが俺で、ここにいるのがお前たちだったら、それでお前たちがロボットにエンジンを動かすよう言ったら、ロボットはどうするんだ。」

 三人はぴたりと手を止めた。

「何だって・・・?」

 スペアはナットとボルトと顔を見合わせた。彼はエンジンの下からはい出ると、パドの前へ来た。その顔が、少しこわばっている。

「おっさん、俺たちがそんな事すると、冗談でも思うのか?」

 パドはスペアの肩に手を置くと、やさしく言い聞かせるように、

「そうじゃない。そういうことでなくてだな。お前たちは、ロボット制作者は、ロボットの維持に不可欠だから、命令があっても傷つけられることはない。じゃ、対象がロボット制作者じゃなかったら、ここのロボットはどうするんだろうと、ただそれを聞いているだけなんだ。」

「・・・?」

 スペアは当惑して黙ってしまった。ロボット制作者ではない、という状況がすぐには理解できなかったのだ。彼の周りの人間、知っているすべての人間がロボット制作者だった。いわば、パドが始めての、非ロボット制作者だったのである。


 彼は始めて、それを考えてみた。ナットとボルトもスペアの後ろにやって来る。かなりの時間が過ぎた頃、スペアはようやく口を開いた。

「おっさんは、俺たちの友達で・・・、俺たちと話しているのをロボットは見ているし、行動を共にしているのも知っているから、ロボット制作者でないにしても、その仲間として認識されているはずだ。ロボットは、命令者の命令によって、命令者の仲間に危害が及ぶ危険のある時は、非優先になり命令を確認する。そういうプログラムがある。・・・。」

 めずらしく、独り言のように考えながらつぶやくスペアを、パドは「続けて」というように黙って見つめた。

「でも、もし――。ロボットが俺たちと一緒にいることを把握できてなかったり、俺たちが非友好的な態度をとっていると認識していたら、ロボットは命令に従う。おっさんが危険になっても、ロボットは命令を確認したりしない・・・。」

 そこまで言うと、スペアは押し黙ってしまった。スペアの後ろの、ナットとボルトも同様に黙っていた。ナットは呆然としているし、ボルトはあらぬ方向を睨んでいる。


「・・・そうか。ここのロボットは、人を傷つけるかもしれないんだ。作業ロボットといっても、戦闘用ロボットを作業用に転化しただけで基本プログラムは同じだから。そうだ・・・。」

 そしてちらっと、発着場で黙々と働いている、大小のロボットの方に目をやった。それは、パドの故郷を滅ぼしたという、ロボットと同じものなのだ。


「俺たちのロボットは、命令があれば、ロボット制作者以外の人間だったら平気で傷つけるんだ。そして――、もしかしたら、そのまま見殺しにしてしまうことだって――」

 そこまで言うとスペアは息を飲み、しばらくうなだれていたが、急にどこかへ走り出しそうとした。パドがあわててその腕をつかみ、ナットも彼の体に飛びつく。膝をついてうなだれたスペアの顔をのぞきこんだナットは、大声で叫んだ。

「そんなの・・・スペアのせいじゃないって! ロボットの基本動作なんて、スペアが設計したとこじゃないじゃん!」

 そして乱暴にスペアを揺すぶる。ボルトも目を潤ませ、乱暴にその背をたたいた。パドはもとより、強くスペアの腕をつかんでいた。

「おいおいおい、泣く事はないだろう。ナットの言うとおりだ。お前が悪いんでも何でもないんだから。変な事を聞いて悪かったな。あのな・・・。多分、今まで、こういうことを考えた事がなかったんだろう? 誰も教えなかったし、聞くこともないんだから。分かってるって。無理もないよな、ここはロボット工場で、ロボット制作者しかいない所なんだから。」

 やさしい口調に、スペアは思わずパドの胸に頭をうずめると、いっそう激しく肩をふるわせて泣き出した。


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