宇宙工場サブファイロット 01章 謎の宇宙船1
宇宙の外れに
巨大な宇宙ステーションがあって
そこではロボットが大量に製造されていた。
人間は、三人しかいなかった。三人とも、ロボット制作者だった。そもそもこの宇宙ステーションは、ロボット開発用に特に建造されたものだった。大小の工場、大型機材、最先端の機器。そういったものがすっかり揃っていた。だがある日、ちょっとした事故が起こって、ほとんどの人間は狂ったロボットによって宇宙に放り出されてしまったのである。
彼ら、スペア、ナット、ボルトの三人が追放されずに済んだのは、たまたま三人ともロボット内部にいたからだった。彼らはロボット間の特殊通信で連絡を取り合い、誤作動の原因となったプログラムバグを突きとめ、暴れるロボットを止めることに成功した。それでロボットたちは人間を放り出すのをやめたが、その時既に、放り出す人間がいなくなってもいたのだった。
01 謎の宇宙船
「やっぱりねえ、ここでうだうだ考えていても始まらないって思うよ。船は残らず出払っているから、搭載型ロボットで周囲をぐるっとまわってみてさ、追放された宇宙船で宇宙がいっぱいになっていないか、様子を見てみるべきじゃ?」
ナットは、お気に入りの紅茶を、陶器の花瓶に注ぎながら言った。ちなみに、大統領邸の棚から勝手に持ってきたものだが、彼らはそれが、花を入れるものとは知らない。
「で、いっぱいの人間を見つけてどうする? そもそも、ここから追放された人たちだって回収できていないんだ。」
ナットから花瓶を受け取ったスペアは、スコップでざらざらと砂糖をすくい、紅茶に入れた。彼は相当の甘党で、自らクッキーやスコーンも焼く。いまテーブルに乗っているのも彼の作ったお菓子で、なんでも古いデータブックに載っていた、古典的な料理ということだった。ここ、展望ルームは甘い香りに満ちている。
「ここの人たちは後でもいいんだよ。機械に弱い人間はひとりもいない。たぶん自力で戻ってくるでしょ。航行装置が壊されていたって直せるし。宇宙シックになる人もいないだろうしさ。問題は、その他のひと。宇宙中の人のことだよ。うちのロボットが誤作動を起こしているかどうかを確かめて、もし暴走していたら納入先の責任者に会って、修正プログラムを渡して何とかしてもらわなくっちゃね。してなくてもそうしなきゃだろうけど。」
ナットはそう言うと、お菓子、他の惑星ではふつう魚の煮付けと呼ばれているものを、スコップですくって頬ばった。もっとも、煮付けにこれほど砂糖をいれる者もいないだろうが。
「納入先の責任者ってどこにいるんだよ。だいたいどうやったらそれが分かる? 大統領邸のデータルームは跡形も残ってやしない。」
三人目のボルトはぶっきらぼうにそう言うと、長い黒髪をかきあげた。そして、腰に下げた道具入れからピンセットを取り出し、魚の小骨を一本一本抜き始めた。
「これ、食えないんだけど。」
「おかしいな。古典食材には食べられないパーツも混じってるのか。データブックには何も書いてなかったけど。」
スペアが、上着の胸ポケットから、小型のデータブックを取り出す。ナットも隣からのぞきこんで、
「『さかな』?」
「うん。たぶんそう読むんだろう。さかんあ、かもな。」
「大統領邸にはいろんな変わったものがあったんだねえ。こんなのはじめてだ。」
ナットは器用に骨をよけながら、ぱくぱくと魚を平らげていく。
「乾燥チップよりずっとおいしいや。これ、まだある?」
「その鍋のなかだ。――誤作動の起こる条件はまだ不明だけど、もしかしたら被害にあったのはここだけかもしれない。違うかもしれない。それを確かめるのは簡単だろう。問題は、ロボットのバグのせいで誤作動が起こっていて、宇宙に追放された人が大勢いた場合だ。助けて回っていたらきりがないし、俺たちの仕業と知れたら半殺しにされる。」
「まあねー。」
「それに狂ったロボットたちに追い回される。俺たちを宇宙に放り出そうとするかもしれないし。」
「それはあるね。」
「それでも様子を見に行くって言うのか? おかしいぞ。それよりこのまま待って、ロボットの発注者なり運送会社なり、誰かコンタクトしてくるのを待った方がいい。」
「やつらは何故こないんだろう。」
ボルトがぼそっと呟いた。彼女の魚は無残にぐちゃぐちゃになっていたが、小骨はきれいに取り除かれていた。それを勢いよく口に流し込む。とたんに顔を歪ませると、
「ナット、お前よくこんなの食うな。」
「おいしいじゃんー。」
「すごい味がする。」
「そこがいいんだよ。」
「管理の悪い脚部オイルに似てるぞ、この味。」
「そういえばそうだね。」
ナットはこともなげに言い、スペアも「うまい表現だな。」と感心した。ボルトは花瓶の紅茶をあおると、「そっちのをくれ。」と別の皿に手を伸ばした。こちらの方は気に入ったらしい。むしゃむしゃと食べながら、
「通信装置は直せないのか? お前でも。」
「うーん、やるだけはやってみたけどね。機械は全部直した。配線も完全。信号もきれいに通ってる。ただ、プログラムが消えちゃったからね。通信システムも相手のアドレスも分からない。SOS信号の設定さえ残ってないんだもの。つまり、ハード面はOK、ソフト面は修復不可能ってところだね。」
「バックアップもなかったのか。」
スペアが尋ねる。
「バックアップルームがどうなったか知ってるでしょ。直径150ミナンのクレーターだよ。まったく、ロボットたちもちょっとは加減してくれたらよかったのにね。」
鍋が空になったのを見て、ナットももう一つの皿の菓子に手を伸ばした。それは揚げたちくわだったのだが、なぜかハニーシロップがかけられている。おそらくスペアの趣味だろう。彼らはこういった乾燥食料でない高級食料には目がなかったのだ。
「通信は不可能、訪問者はなし。困ったもんだな。」
「一番近いステーションの位置ぐらい分からないのか。そこに行けば、通信プログラムぐらいコピーしてもらえる。」
ボルトが言うと、
「位置が分かれば、ね。ついでにそのステーションに、人がいれば。狂ったロボットだらけじゃなくて。ね、なんでこれ穴が空いてるの? スペアが開けたの?」
ナットは不思議そうにスペアを見た。
「大統領邸の貯蔵庫で見つけた時からこうだったんだ。たぶん空気穴じゃないのか。そこから空気を取り入れるんだろう。」
「じゃ、これは管? 本体はどこ?」
「本体は見つからないんだ。多分、お偉方が食べちゃったんだと思う。」
「うーん、残念! 僕らは空気管だけかあー。」
ナットが嘆いたその時、中央展望ルームにリズミカルな警報が響いた。楕円形の部屋の天井にはめられた照明が色鮮やかに光る。彼らは情報パネルをそろって見上げた。
「ん? A3が呼んでる。どうしたA3。」
椅子から立ち上がり、展望ルームに散らばる金属製の丸テーブルや、色とりどりの椅子の間を抜けてスペアが壁のパネルを操作すると、正面の大型スクリーンに、異様な形のロボットが映し出された。
「曳航用シップの組み立てが完成しました。」
「ご苦労。発着場の修理の進捗は?」
ちくわを口にくわえて、すうすうと息を吸いながら尋ねる。すごい格好だが、本人も周りも、誰もそういう事を気にしない。
「あと3ターンはかかるでしょう。基礎工事は終わりました。駆動部分は20.3%完成、配線部分は38.6%、第1次全体チェック開始まであと11タイム52センドの予定です。」
「了解。これから見に行く。」
「はい。通信切ります。」
ロボットの映像が消え、画面がステーション内のエネルギーマップに戻ると、スペアは残りのちくわを口に押し込んだ。
「なに? シップの組み立てなんかやらせてたの?」
「まあな。どのみち、ないよりあった方がいいだろ。」
「発着場はあと3ターンか。」
ボルトがつぶやく。
「あそこが直れば、宇宙に追放された仲間たちが到着できるな。みんなに、帰ってくる意志があればだけど。」
「それ、どういう意味さ。」
「分からないかナット? みんな、ここが狂ったロボットに制圧されたと思ってるかもしれない。仲間が残ってるなんて思わないかも知れないし、複数の船に分乗して通信手段がなかったら、確かめようもないだろ。そしたら他のステーションめがけて今ごろ航行中か、もう着いているかもしれないってことさ。」
「あー、そういう可能性もあったか。」
「通信さえできればな・・・。まあ、言ってみても始まらない。私、発着場を見てくるよ。」
「俺も行く。」
「僕も。」
三人は連れ立って展望ルームを後にした。




