表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

── 第9話─家の灯りの中で知ったこと──

いつも読んでくださりありがとうございます。

今日は少し歩みを止めて、レンと家族の物語を描きます。

村の空気が変わり始めた今、両親が本当はどう思っていたのか――

その“答え”が灯りの中で静かに語られます。


この作品は 毎日19時に更新しています。

ゆっくりお付き合い頂けたら嬉しいです。

村のざわつきが落ち着きはじめてから、数日が過ぎた。


鍛冶炉の騒ぎや魔力麦の揺らぎ――

そんな出来事のせいか、村人の態度は少しずつ柔らかくなってきた。


けれど家に帰ると、胸の深いところに、まだぽつりとした重さが残っていた。


(……父さんと母さん。なにか言いたげな顔、してた気がする)


そんなことを考えながら夕食の席につくと、

父と母は向かい合って静かに俺を見た。


しばらく沈黙があって、父が先に口を開いた。


「……レン。最近、表情が少し明るくなったな」


「え? そうかな」


「うん。よかったよ」


言葉は嬉しいはずなのに、胸の奥がざわつく。


だから、思い切って言った。


「父さん。母さん……

俺、ずっと“避けられてる”気がしてたんだ」


父の手が止まった。


「避けられてる……?」


「火を揺らしたり、灯りが消えたり……

そういうのが続いてる間、みんな距離を取ってた。

父さんたちも……どう接していいか迷ってたんじゃないかって」


母が息をのんだ。


父は、少しだけ苦笑した。


「迷っていたのは……確かにそうかもしれないな」


「やっぱり……俺が変だから?」


父は即座に首を振った。


「違う。

お前が“変だから避けよう”なんて、一度も思ったことはない」


その言い方は強くて、どこか優しかった。


「じゃあ……なんで?」


父はゆっくり言葉を選ぶように続けた。


「俺たちが怖かったのは……

お前自身が、ひとりで抱え込んでしまうことだった」


母がうなずき、静かに言葉を重ねる。


「そうよ。

レンが誰かに責められるんじゃないか……

嫌な思いをするんじゃないか……

そればっかり心配してたの」


胸の奥がじんわり熱くなる。


父は続けた。


「火が揺れようが、灯りが消えようが……

それは“お前のせいじゃない”と分かってた。

でも村がどう受け取るかは分からなかったからな。

だから無理に明るく振る舞って、余計に言葉が出せなくなってたんだ」


母は俺の手にそっと触れた。


「ねぇレン。

不思議な力を持っているってことは……

誰よりも繊細だってことでもあるのよ。

だからこそ、私たちはあなたの味方でいたい」


「……母さん……」


父も穏やかに笑う。


「お前が誰かを助けたって話、村で少しずつ聞いてるぞ。

灯りも、麦畑も……“静めた”って」


「……あれは偶然だよ。俺はただ……近くにいただけで」


「それで十分だ。

困っているものに寄り添って、静められるなら――それは立派な力だ」


言葉が胸に染みていく。


父は最後に、少し照れたように言った。


「なぁレン。

お前の力を“どう思うか”を決めるのは、村の誰でもない。

まして俺たちでもない。

……お前自身だよ」


母もうなずく。


「だから、迷ったらちゃんと話してね。

ひとりで抱え込もうとするのが一番心配なんだから」


ぽたり、と胸の奥の何かが溶けた気がした。


――こんなに近くにいたのに、

俺は二人の気持ちを何ひとつ分かっていなかった。


「……うん。ありがとう」


父は照れ隠しのように咳払いをし、母は静かに笑った。


家の灯りの温かさが、いつもより少しだけ明るく見えた。


そして俺は思った。


(……村を出るとか、どこへ行くとか。

まだ何も決めていないけれど――

この家に帰れるなら、それが一番の支えだ)


小さく息を吐くと、胸の奥に残っていた孤独が、少しだけ静かに溶けていった。


読んでくださりありがとうございます。


今回は、これまであまり描けていなかったレンと両親の想いを形にしました。

不器用ながらも、ずっと見守ってきた家族の温度を少しでも感じてもらえていたら嬉しいです。


物語は、ここからまた少し動き出します。

明日も 19時更新でお届けしますので、のんびりお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ