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── 第7話─揺れる麦穂と、静まる魔力──

鍛冶炉の騒ぎからしばらく経ち、村はいつもの静けさを取り戻しつつありました。

そんな中で起きたのは――収穫前の麦畑が“ざわつく”という、小さな異変。


火でもなく、魔力灯でもなく、今度は“自然の魔力”が揺れる場面で、レンの力がどう働くのか。

彼の中に芽生えた「変化の芯」がまた一つ形になる回です。


※この作品は 毎日19時に更新 しています。

よければ、今日も一緒に物語を楽しんでいってください。



 魔力灯の暴走を静めたあの日から――

胸の奥に、ほんのかすかな“ざわめき”を感じることが増えた。


理由はわからない。痛みでも重さでもない。

ただ、何かが触れたときのような微細な反応が、時々ふっと走る。


その朝も、薪を運びながら村道を歩いていると、

その“ざわめき”がいつもより少し強くなっていた。


(……また、何か揺れてる?)


胸の奥が、答えを急かすようにざわつく。


畑の方へ視線を向けた瞬間、足が止まった。


風はまったく吹いていないのに――

麦穂だけが、ざわ……と、小さく震えていた。


まるで、怯えているみたいに。


(やっぱり、何か起きてる)


そう思った矢先。


「レンーっ!!」


砂道を蹴って、リナが駆けてくる。

息が少し乱れていて、焦っているのが分かる。


「畑! 麦畑の方、なんか大変なことになってる!」


「畑が?」


「うん! 麦が暴れてて、収穫前なのに“魔力が噛んでる”って!」


リナが腕をつかんで走り出す。

胸のざわめきは、もうはっきりと“警告”を告げていた。



---


◆ 麦畑の異変


畑に着くと、農家の人たちが騒ぎながら麦を囲んでいた。


ざわ……ざざっ……


麦穂が、風のない空気を無視して不規則に揺れている。

一本だけではなく、畑の一角がまるごと落ち着きなく震えていた。


「なんだこれは……! このままじゃ麦が枯れちまう!」


「収穫直前だぞ!? 頼む、落ち着いてくれ……!」


農家の主人が額に汗をにじませながら叫ぶ。


麦は魔力を帯びることがある。

光を溜めて質を上げる畑もあるし、魔法薬の材料にする地方もある。


でも――こんなふうに“暴れる”のは明らかに異常だ。


(あの揺れ方……炉の暴走と似てる)


胸のざわめきが、畑の揺れと同じリズムで震えていた。


「レン、行ける?」


リナが小声で聞いてくる。


俺は迷った。

火やランタンとは違う。畑全体だ。


近づいたら吸いすぎて、また怖がられるかもしれない。


けれど――


「誰か、止められるやつはいないのか!?」


農家の叫びに、身体が動いた。


「……少し、やってみる」


「レン!? 危ないぞ!」


主人が止めようとするが、リナが前に出た。


「大丈夫です! この子は……“落ち着かせられる”んです!」


主人は半信半疑の顔をしながらも、手を止めた。


俺は麦畑の端に立った。


ざざっ……ざわざわっ……


胸のざわめきが強くなる。

まるで、麦の不安がそのまま流れ込んでくるみたいだった。


(大丈夫……俺に向けられたわけじゃない。麦自体の揺らぎだ)


ゆっくりと一歩、踏み出す。


畑の揺れが――ほんの少し弱まった。


さらにもう一歩。


ざわざわ……ざ……


揺れが、沈んでいく。


胸の奥に、あの感覚。


暴れた魔力が触れた瞬間、

吸い取るのではなく――“静けさ”へと変わっていく。


(炉と同じだ……魔力が落ち着いていく)


ついに麦穂の震えは完全に止まり、

畑は風のない静寂を取り戻した。


農家たちは驚きのまま固まっていた。


「……お、おい。収まったぞ」


「ほんとに……レンがやったのか?」


主人がゆっくりと俺の肩に手を置いた。


「助かった……本当に……助かったよ」


言葉はまだぎこちない。

でも、その声は確かに震えていた。


うれしさか、驚きか、恐怖ではない震え。


俺は何も言えなかった。


ただ、胸の奥の芯が温かく灯り、

さっきより少しだけ強くなったのを感じた。



---


◆ リナの言葉


畑を離れると、リナがにっこり笑った。


「ね? やっぱりレンは“同調”なんだよ」


「同調って……」


「ほら、暴れてる魔力とレンの魔力が触れたら、落ち着いていくでしょ?」


落ち着かせる。


火も、炉も、ランタンも。

そして今は――畑まで。


「……俺の力って、そういうものなのかな」


「うん。そうだよ」


リナは迷いなく言った。


「誰かを助ける力だよ。それ、今日も証明したじゃん」


胸がまた熱くなる。


(俺の力は……人を困らせるものじゃない?)


そんなふうに思ったのは、生まれて初めてだった。



---


◆ そして、遠くから


その頃、村へ続く街道。


旅の薬師が、揺れる小瓶を手に畑の方を見やった。


「……やっぱり、面白い」


静かに、小さく笑った。


「“落ち着かせる”資質……そう簡単に見つかるものじゃない」


薬師は再び歩き出す。


レンの知らないところで、

静かに、確実に、村の外側の世界が動き始めていた。


読んでくださりありがとうございます。


魔力麦の件を通して、レンの力が少しずつ“ただの厄介さ”から

“役に立つかもしれない力”へ変わり始めた回でした。


この調子で、村との距離もゆっくり変わっていきます。


更新は毎日19時。

明日も読んでもらえたら嬉しいです。

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