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✦ 『魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした』  作者: maruhiro
【第4章 選ばされる側――学園という制度】
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── 第65話─外した一点──



 中庭のざわめきは、すぐに元へ戻った。

噴水の縁で尻もちをついた学生が、水を払って立ち上がる。

水を浴びた友人が文句を言い、それが笑いに変わる。

――怪我人はいない。

それが、レンには現実感を伴わなかった。

頭の中では、別の未来がまだ消えていなかったからだ。

光が直撃する。

悲鳴が上がる。

人が押し合い、転び、教師が駆け寄る。

結界が張られ、騒ぎになり、処分と噂が残る。

でも、その未来は起きなかった。


「……終わった、んですよね」

自分で言って、確かめるような声になった。

案内役の女性は、噴水の水面を見たまま頷く。

「終わりました。あなたが“外した”からです」

レンは口を閉じた。

確かに、何かをした。

でも、力を使った手応えは薄い。

ただ――間に合った、という感覚だけが残っている。


木陰では、魔力を暴走させた学生が座り込んでいた。

案内役の女性に支えられ、息を整えている。

「……すみません」

震えてはいるが、言葉は途切れない。

謝罪が、ちゃんと成立している。

その様子を見て、レンは気づいた。

もし、あの光を“止めて”いたら。

この謝罪も、この流れも、丸ごと消えていたかもしれない。


「レン」

振り向くと、セイルが少し近くに立っていた。

半歩分だけ距離が縮まっている。

「今の、見てたか」

「見てた」

短い返事だった。

「止めなかったな」

「外した」

「だから、助けになった」

評価でも感想でもない。

事実の確認だった。


レンは噴水を見る。

波紋はもう、ほとんど残っていない。

「……俺、助けたんですか」

自分でも曖昧な問いだった。

セイルは、すぐには答えない。

その代わり、案内役の女性が前に出た。


「確認しましょう」

彼女は噴水の縁を指さす。

水が跳ねた場所。

驚いた学生。

濡れただけの服。

「事故は起きました」

「でも、事件にはなっていません」

レンの胸が、少しだけ締まる。

「あなたは、事故そのものを消していない」

「“怪我が出る一点”だけを外しました」

一点。

レンの頭に、さっき見えた未来が浮かぶ。

当たる。

血が出る。

騒ぎになる。

その最初の“引き金”だけが、外れた。


「……俺、続きが見えました」

レンが言うと、案内役の女性は頷いた。

「それが見えるなら、あなたは選べます」

「どこを外すかを」

選べる。

その言葉に、レンは怖さを覚えた。

「間違えたら……?」

「間違えます」

案内役の女性は、はっきり言った。

「だから次は、言葉にします」

レンの喉が鳴る。

「何を、ですか」

「あなたが、どの“中心”を外したのか」

「止めないために」

「消さないために」

噂になりかけている視線が、噴水の周りに集まり始める。

事件じゃない。

でも、“話題”にはなる。

案内役の女性が、さりげなくレンの前に立つ。

噂の芽と、レンの間に入る位置。


「今は、私がいます」

小さな声だった。

でも、確かだった。

レンは深く息を吸う。

今日は、守れた。

偶然じゃない。

選んだ結果だ。

(止めない)

(外す)

(中心だけ)

その三つを、胸の奥で反復する。

この力は、奪うためのものじゃない。

壊さない未来を残すために、使える。

レンはそう、はっきり理解し始めていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

レンの力が、少しだけ“使い道”を見つけた回でした。

更新が仕事の都合で遅れてしまい、すみません。

それでも追ってもらえているのが本当に励みです。

ブックマークや反応、ありがとうございます。

次も続けて書いていきます。

※毎日19時頃更新

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