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✦ 『魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした』  作者: maruhiro
【第4章 選ばされる側――学園という制度】
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── 第64話─外すという助け方──



 中庭に出た瞬間、レンは分かった。

講義室と違う。音が多い。匂いも風も、人の気配も、全部が重なっている。


それでも――ここでやるしかない。


噴水の水音。

笑い声。

石畳を踏む靴。

木陰では、光の蝶みたいな魔力が小さく跳ねている。


案内役の女性は、レンの少し斜め後ろ。

会話に入れる距離。止めに入れる距離。

そして――セイルは、いつもの場所にいた。

日向と影の境目。

壁際に寄りかからず、立ち尽くしもせず、ただ視界に入る位置。

「いる」だけで十分な距離。

「今日は、短い実地です」


案内役の女性が言った。

「危なくなる“前”だけ、あなたに任せます」

レンは頷いた。

分かっているようで、まだ分かっていない。

でも、昨日までの“止める”よりは、輪郭がある。

(当たってもいい)

(壊れる未来はいらない)

そう、講義室で教わった。


「じゃあ、まずは軽く」

案内役の女性が指先に小さな光を作る。

速度は遅い。目で追える。

「当てます。レンは――“外す”」

光が飛ぶ。

レンは逃げなかった。

胸の奥で“許可”を出す。

(当たってもいい)

光は頬の横を通り、壁で散った。

中庭の音も流れも、何も変わらない。

案内役の女性が、小さく息を吐いた。

「いい。今のは“外す”」


――その瞬間だった。

木陰の方で、魔力の蝶を飛ばしていた学生が、声を上げた。

「おい、待て、止まれ……!」

蝶じゃない。

光が、急に数を増やした。

弾けていたはずの小さな術が、まとまって“ひとつの塊”になる。

空気が、きしむ。

「暴走だ!」

誰かが叫んだ。

光の塊は、噴水の方へ――違う。

噴水の“上”へ向かっている。

噴水の縁には、子どもみたいに座って水を覗いていた学生がいる。

次の瞬間、レンの頭の中に“続き”が見えた。

光が落ちる。

誰かが叫ぶ。

人が押し合う。

転ぶ。

騒ぎになる。

処分が出る。

――そしてまた、「レンの近くで何か起きた」になる。

(消すな)

(あれは、違う)

レンは反射で“消しかけた”。

でも、講義室の息苦しさを思い出して踏みとどまる。


案内役の女性が一歩出た。

「レン! “外す”! 一点だけ!」

一点だけ。

壊れる一点だけ。

レンは、暴走した光を見た。

――あれを消すんじゃない。

消したら場が止まる。周りも巻き込む。

“当たる未来”の中心だけを、外す。

(光は落ちてもいい)

(でも、あの子に当たる未来はいらない)

レンの中で、何かが切り替わった。

光の塊が、落ち方を変えた。

止まったわけじゃない。

消えたわけでもない。

落ちる“理由”はそのままに、落ちる“場所”だけがズレた。

噴水の縁から、紙一枚分だけ外れる。

水面に当たって、ばしゃりと大きく跳ねた。

水が飛ぶ。

学生が驚いて尻もちをつく。

けれど――血は出ない。

悲鳴にならない声が上がって、すぐ笑いに変わる。

「うわ、冷てえ!」

「何やってんだよ!」

その“生活の戻り方”に、レンは息を止めた。

事故は起きた。

でも、壊れる未来だけが起きていない。


案内役の女性が、すぐに暴走した術者の元へ駆けた。

手首を掴み、短く言う。

「息を止めない。指を開いて。――解除」

学生は泣きそうな顔で頷き、魔力がほどける。

周囲のざわめきは残る。

でも、それは“事件”のざわめきじゃない。

ただの「びっくりした」のざわめきだ。


レンの隣で、セイルが小さく言った。

「……今のは、悪くない」

褒めるでもなく、慰めるでもなく。

事実だけだった。

案内役の女性が戻ってくる。

いつも通りの顔に戻っている。

でも目だけが、少し鋭い。

「今の、見ましたね」

レンは頷いた。

生活は、何事もなかったみたいに続いていた。

レンは口を開く。

でも言葉が出ない。

“すごいことをした”実感がない。

ただ、頭の中で見えた“続き”が、一つだけ削れた。

それだけだ。


案内役の女性が、静かに言った。

「レン。あなたは、魔力を消したんじゃありません」

「事故の“中心”だけを、外しました」

レンは噴水の水面を見る。

さっきの飛沫が、もう落ち着いている。

「……俺、今みたいなのを」

やっと声が出た。

「選んで、できるんですか」

案内役の女性は、すぐに頷かない。


「できる“回数”を増やしましょう」

「失敗したら、私が間に入ります」

「でも――あなたが先に“外す”を選べた。今、それが一番大きい」

レンは息を吐いた。

怖い。

でも、今までの怖さと違う。

壊す怖さじゃない。

“壊さない選び方がある”ことの怖さだ。

セイルが、もう一度だけ言った。

「戻れなくなるぞ」

「……何に?」

レンが聞くと、セイルは答えなかった。


噴水のそばで、さっき尻もちをついた学生が笑っている。

水をかけられた友達が、文句を言っている。

その声は、ちゃんと続いている。

レンは理解した。

自分が消してしまうのは、言葉じゃない。

“続き”だ。

だから――削る場所を選べれば、守り方になる。


レンは、噴水の水面から視線を上げた。

「……もう一回、やっていいですか」

案内役の女性が、小さく笑った。

「はい。今度は、あなたから合図を出してください」

中庭の音は、いつも通りのままだった。

でもレンの中だけ、昨日までと違う線が一本引かれていた。

“止める”じゃない。

“外す”。

それは初めて、レンの力が“人の役に立つ形”になった瞬間だった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

少しずつですが、レンの「できること」が形になってきました。

仕事の都合で更新が遅れてしまい、すみません。

それでも読みに来てくれた方、本当に感謝です。

ブックマーク・評価、とても励みになります。

続きも、焦らずちゃんと積み上げていきます。

また次話で。

※毎日19時頃更新

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