表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✦ 『魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした』  作者: maruhiro
【第4章 選ばされる側――学園という制度】
63/68

── 第63話─止めるのではなく、外す──



 講義室は小さかった。

 黒板と机。壁際の棚。床には、薄い円が描かれている。魔法陣というより、目印に近い。

 案内役の女性が、円の外側に立った。

 レンは円の中。

 初老の教師は椅子に座り、白外套の男は壁にもたれて見ている。



「今日はね、レン」  初老の教師が言った。 「“止める”と“外す”の違いを見ます」

 レンは眉を寄せた。

「違い、あります?」

「あります」  

白外套の男が短く答えた。

「君は今まで、“止める”が強すぎる。だから周りが巻き込まれる」

 

 案内役の女性が、手のひらを上に向ける。

 指先に、小さな光が生まれた。火でも雷でもない。

授業用の、弱い魔力球だ。

「これは危険じゃありません。痛くもありません」

 女性はレンの目を見る。

「当てます。避けなくていいです。……逃げない練習です」

 レンは小さく頷いた。

 光が飛ぶ。

 遅い。まっすぐ。

 頬に当たりそうな速度。

 ――レンの身体が、勝手に“止めよう”とした。

 次の瞬間、光がふっと薄くなって消えた。

 消えた、というより、最後の一歩が無かった。

 部屋の流れが、わずかに詰まった。

次の呼吸が来る前に、空白が挟まる。

 

案内役の女性が、手を止めた。

「今のが“止める”です」

初老の教師は、床の円を軽く杖で叩いた。

「彼女の魔力は、途中で存在ごと消えた。当たる前でも、外れる前でもない」

教師は、部屋を一度ぐるりと見回す。

「行動が途中で断ち切られると、その余波が残ります。今、空気が少し重く感じたでしょう」

レンは息を吸って、初めて気づいた。

さっきより、呼吸がわずかに詰まる。

「……感じます」

「それが“止めた”影響です。魔力だけでなく、場の流れも一緒に切ってしまう」


 レンは視線を落とす。

「……俺、今、何かしました?」

「した自覚がないのが問題ではない」

 白外套の男が淡々と言った。

「“反射”のように発動しているのが問題だ」

 レンは息を吐いた。

 たしかに、勝手に出て、勝手に消えた。

「次は、“止めない”」

 初老の教師が言った。

「消さない。そのかわり――当たり方だけ変える」

 レンは口を開く。

「当たり方だけ?」

「例えば」  

初老の教師が指を二本立てた。

「例えば、こうです」

初老の教師は、指でレンの頬の横をなぞるように示した。

「本来なら、ここに当たるはずだった」

「でも君は、“当たった後に起きること”を成立させていない」

教師は、空中で小さな線を引く。

「当たる」

「驚く」

「体が反応する」

「場が動く」

一本ずつ、指で折っていく。

「この二つ目以降だけが、君の近くで繋がらない」

レンは息を呑んだ。

「……だから、当たる直前で、進路がずれる?」

「そうです」

教師は頷く。

「行動は残る。結果の“続き”だけが成立しない」

「それを、我々は“外す”と呼びます」

 言っていることは分かる。

 でも、やり方が分からない。

 案内役の女性が、もう一度光を作る。

「レン。合図を決めましょう」

 女性は静かに言った。

「“消すな”って思った瞬間、あなたは消します。だから逆です。消すな、じゃなくて――“当たってもいい”を先に置いてください」

「当たってもいい?」

「はい」  

女性は頷く。

「“当たるのが嫌”が強いと、世界ごと止めます。だからまず許可を出す」


 レンは戸惑った。

 当たってもいい、なんて思えるか?

 でも――思うしかない。

 光が飛ぶ。

 レンは腹の奥で、言葉にしないで決めた。

(当たってもいい)

 頬に来る。

 来る。

 来る――

 当たらない。

 光は、頬のすぐ横を抜けて、壁に触れて消えた。


 案内役の女性が、わずかに目を細める。

「今の、私の狙いは変えてません」

 レンは自分の頬を触った。  冷や汗が遅れて出る。

「……外れた?」

「外れました」

 初老の教師が言う。 「

消していない。行動は成立している。でも、“当たる一点”だけ成立していない」

 白外套の男が一言落とす。

「これが“外す”だ」

 レンは、もう一度だけ確認するように言った。

「でも俺、避けてない」

「避けさせる力ではない」

 白外套の男が言う。

「君は、“結果”の方を外している」

 レンは口を閉じた。

 理解が追いつきそうで、追いつかない。


 初老の教師が、床の円を指さした。

「レン。今のを解説します」

「①彼女は“当てる”という行動をした」

「②君はその行動を消していない」

「③でも、君の近くで“当たった後の流れ”が繋がらなかった」

 レンの喉が乾いた。

 当たった後の流れ。

 痛い。

 驚く。

 一歩下がる。

 周りが見る。

 誰かが余計なことを言う――

 その「次」が、成立していない。

 だから、当たらない方に寄る。


「……俺、止めてないのか」

 レンは小さく言った。

「“次”を作らせてない……?」

「そう」  初老の教師が頷く。

「君が消しているのは、行動ではなく“続き”です。だから言葉が折れた。殴ろうとして止まった。――全部同じ」

 レンの背中に汗が浮く。

「じゃあ……外すってことは」

 レンは、ゆっくり言う。

「続き全部を消すんじゃなくて、危ない続きだけ、薄くする……?」

 初老の教師は少し笑った。

「その言い方、今の君に一番近い」

 案内役の女性が、三回目の光を作る。

「次は少し速くします。レン。さっきの“当たってもいい”を忘れないで。でも“当たって壊れる未来”は、いらない」

 


レンは、心の中で二つに分ける。

(当たってもいい)

(でも、壊れるのはいらない)

 光が飛ぶ。速い。

 レンは怖くて、反射で消しかける。

 でもギリギリで踏みとどまった。

 結果は同じだった。

 頬を掠めず、肩の布を軽く揺らして、壁に散った。


 案内役の女性が、息を吐く。

「……今のなら、中庭でもやれます」

 レンが顔を上げる。

「中庭?」

「人がいる場所で、同じことが起きるからです」

 白外套の男が言う。

「君が“外す”を覚えると、事故を減らせる。止めるより、ずっと良い」

 レンは言葉を失った。

 止めると、人の選択肢を奪う。

 外すと、人の行動は残る。

 ただ、壊れる一点だけが起きにくい。

 それが――助けになる。

 レンは、床の円の中で手を握って開いた。

 自分が何をやっているのか、輪郭が初めて見えた気がした。



「……俺、これを覚えたら」

 レンは小さく言った。

「カイのことも、守れる?」

 


初老の教師はすぐ答えなかった。

 一拍置いて、正直に言う。

「守れる可能性が上がります。ただし、君が“守ろうとしすぎる”と、また止めます」

「だから――守るより先に、外す」

 レンは頷いた。

 

逃げない、と決めたのとは違う。

 今度は、やり方がある。

 案内役の女性が、静かに言う。

「明日。中庭で、短い実地をします。失敗しそうなら、私が“間”に入ります。一人にはしません」

 


 レンは影を見る。

 幼精霊は揺れていない。

 それが、今は一番ありがたかった。

 レンは、ゆっくり息を吐いた。

 ――止めるんじゃない。

 ――外す。

 それが、初めて“助け”に繋がった日だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は少し説明が多めの回になりましたが、レンの力の輪郭がやっと見え始めました。

止めるのではなく、外す。

この違いが、これからの展開に効いてきます。

ブックマークや評価、感想をいただけると励みになります 。

次回もよろしくお願いします。

※毎日19時頃更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ