── 第6話─はじめて誰かの役に立てた日──
今回は、村の小さな“トラブル”をきっかけに
レンの力がまた一歩だけ形を見せる回です。
気軽に読んでもらえたら嬉しいです。
旅の薬師が村を訪れてから、三日ほどが過ぎた。
村の空気はいつもと変わらないようで、どこか少しだけ違っていた。
「火が残ったらしいぞ」「炉のときも暴れなかったそうだ」
そんな断片的な噂が耳に入る。
いい噂か悪い噂かは分からない。
けれど、胸の奥で小さく灯った“変化の芯”だけは、ゆっくりと残っていた。
◆
午前。
村の掲示板の前を通ると、騒ぎの声が聞こえた。
「危ないって言ってるだろ!」
「だって、火がつかないんだよ!」
少年トモが魔力灯を抱えていた。
足元には割れたガラス。
灯りからは、ばちばちと青い火花が弾けている。
(……魔力が乱れてる)
大人たちは火花に近づくのを恐れて後ずさる。
「誰か落ち着けられる奴はいないのか!?」
その言葉に――身体が勝手に前へ出た。
「……やってみる」
息をのむ気配が背中に集まる。
俺はゆっくりと魔力灯へ近づいた。
火花が散り、トモが怯えて下がる。
その瞬間。
ふっと、火花の勢いが弱くなった。
胸の奥に、かすかな流れが通る。
暴れた魔力が、俺に触れた途端――“静けさ”に変わっていく。
ぱち、ぱち……
音は小さくなり、やがて灯りの芯だけが残った。
広場が静まり返る。
「……止まった?」
「今の、レンが……?」
その中で、トモが小さく言った。
「あ、ありがとう……レン兄ちゃん」
胸に熱が走る。
(……俺が、誰かの役に立てた?)
生まれて初めての感覚だった。
◆
「ねぇ、やっぱりレンってすごい!」
リナが駆け寄り、腕をつかんだ。
「すごくはないよ。たまたま落ち着いただけだ」
「たまたまじゃないってば。普通、暴れてた魔力が止まったりしないんだよ?」
息を弾ませながら、リナは続ける。
「薬師さんの言ってた“同調”って……こういうことかもね」
まだよく分からない。
けれど――胸の奥の小さな芯が、少し強く灯った気がした。
◆
夕方。
トモの母親が家の前に立っていた。
「レンくん……今日のこと、本当に助かったよ」
戸惑う俺に、彼女は深く頭を下げた。
「怖がってばかりで……ごめんね。
あんたのおかげで、トモは怪我しなくて済んだんだよ」
干し果実を渡され、言葉が詰まる。
避けられるだけだった村で、
“ありがとう” を向けられたのは、初めてだった。
◆
帰り道。
リナが夕陽に照らされながら並んで歩く。
「ね? 今日で証明されたじゃん」
「何が?」
「レンの力は、奪う力じゃなくて――“落ち着かせる力”なんだよ」
その言葉は、今日一日のどの瞬間よりも胸に響いた。
「……そう、なのかもしれない」
「かもしれないじゃなくて!」
リナは照れくさく笑いながら、小突いてくる。
「今日のレン、ちょっと格好よかったよ?」
「……は?」
「なんでもない!」
赤くなったリナが前を向く。
夕暮れの風は、いつもより少しだけ優しく感じた。
ほんの少しだけ、前に進めた気がした。
◆
その頃。
村を離れた街道の上。
旅の薬師は手元の小さな水晶を覗き込み、ぽつりと呟く。
「……やはり、ただの吸収じゃないな」
風が揺れ、薬師の外套がはためく。
彼は村の方へ一度だけ視線を向けると、静かに歩き出した。
レンの知らないところで――静かに何かが動き始めていた。
読んでくださりありがとうございます。
今回は、レンが“初めて感謝される”場面を書きました。
彼の力がまだ曖昧なままでも、少しずつ意味を持ちはじめる――
その第一歩になればと思っています。
次回もゆるく続けていきますので、また読んでもらえたら嬉しいです。




