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── 第6話─はじめて誰かの役に立てた日──

今回は、村の小さな“トラブル”をきっかけに

レンの力がまた一歩だけ形を見せる回です。


気軽に読んでもらえたら嬉しいです。



 旅の薬師が村を訪れてから、三日ほどが過ぎた。


村の空気はいつもと変わらないようで、どこか少しだけ違っていた。


「火が残ったらしいぞ」「炉のときも暴れなかったそうだ」


そんな断片的な噂が耳に入る。


いい噂か悪い噂かは分からない。

けれど、胸の奥で小さく灯った“変化の芯”だけは、ゆっくりと残っていた。


 



 


午前。

村の掲示板の前を通ると、騒ぎの声が聞こえた。


「危ないって言ってるだろ!」

「だって、火がつかないんだよ!」


少年トモが魔力灯を抱えていた。

足元には割れたガラス。

灯りからは、ばちばちと青い火花が弾けている。


(……魔力が乱れてる)


大人たちは火花に近づくのを恐れて後ずさる。


「誰か落ち着けられる奴はいないのか!?」


その言葉に――身体が勝手に前へ出た。


「……やってみる」


息をのむ気配が背中に集まる。


俺はゆっくりと魔力灯へ近づいた。

火花が散り、トモが怯えて下がる。


その瞬間。


ふっと、火花の勢いが弱くなった。


胸の奥に、かすかな流れが通る。

暴れた魔力が、俺に触れた途端――“静けさ”に変わっていく。


ぱち、ぱち……

音は小さくなり、やがて灯りの芯だけが残った。


広場が静まり返る。


「……止まった?」

「今の、レンが……?」


その中で、トモが小さく言った。


「あ、ありがとう……レン兄ちゃん」


胸に熱が走る。


(……俺が、誰かの役に立てた?)


生まれて初めての感覚だった。


 



 


「ねぇ、やっぱりレンってすごい!」


リナが駆け寄り、腕をつかんだ。


「すごくはないよ。たまたま落ち着いただけだ」


「たまたまじゃないってば。普通、暴れてた魔力が止まったりしないんだよ?」


息を弾ませながら、リナは続ける。


「薬師さんの言ってた“同調”って……こういうことかもね」


まだよく分からない。

けれど――胸の奥の小さな芯が、少し強く灯った気がした。


 



 


夕方。

トモの母親が家の前に立っていた。


「レンくん……今日のこと、本当に助かったよ」


戸惑う俺に、彼女は深く頭を下げた。


「怖がってばかりで……ごめんね。

あんたのおかげで、トモは怪我しなくて済んだんだよ」


干し果実を渡され、言葉が詰まる。


避けられるだけだった村で、

“ありがとう” を向けられたのは、初めてだった。


 



 


帰り道。

リナが夕陽に照らされながら並んで歩く。


「ね? 今日で証明されたじゃん」


「何が?」


「レンの力は、奪う力じゃなくて――“落ち着かせる力”なんだよ」


その言葉は、今日一日のどの瞬間よりも胸に響いた。


「……そう、なのかもしれない」


「かもしれないじゃなくて!」


リナは照れくさく笑いながら、小突いてくる。


「今日のレン、ちょっと格好よかったよ?」


「……は?」


「なんでもない!」


赤くなったリナが前を向く。


夕暮れの風は、いつもより少しだけ優しく感じた。


ほんの少しだけ、前に進めた気がした。


 



 


その頃。

村を離れた街道の上。


旅の薬師は手元の小さな水晶を覗き込み、ぽつりと呟く。


「……やはり、ただの吸収じゃないな」


風が揺れ、薬師の外套がはためく。


彼は村の方へ一度だけ視線を向けると、静かに歩き出した。


レンの知らないところで――静かに何かが動き始めていた。


読んでくださりありがとうございます。


今回は、レンが“初めて感謝される”場面を書きました。

彼の力がまだ曖昧なままでも、少しずつ意味を持ちはじめる――

その第一歩になればと思っています。


次回もゆるく続けていきますので、また読んでもらえたら嬉しいです。

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