── 第56話─間に、立つ人──
次の日の午前は、静かに始まった。
呼び止められない。
説明もない。
ただ、昨日と同じ廊下を歩くだけ。
違うのは一つだけだった。
案内役の女性が、少し近くにいる。
前に立つわけでも、後ろにつくわけでもない。
横にいる。
話に割り込める距離。
守られている、というより――
一人にしない、という配置だった。
中庭に出る。
噴水の音。
昼前のざわめき。
その中に、カイがいた。
目が合う。
向こうが、いつも通り手を上げる。
「おはよ」
声は軽い。
昨日と同じ。
俺は一瞬だけ迷ってから、返した。
「……おはよう」
足元で幼精霊が揺れる。
強くない。
止めない。
行ってもいい。
それだけの揺れだった。
案内役の女性は、少し離れて腰を下ろす。
見える位置。
聞こえる距離。
でも、会話には入らない。
「昨日さ」
カイが言った。
「話そうとすると、言葉が止まる感じあったろ?」 「今日は、それがない」
胸の奥が、少しだけ詰まる。
「普通に話せる、変だと思ったけど、もう気にならない」
それは、昨日と違う結果だった。
俺は答えなかった。
説明も、否定もできない。
幼精霊が、静かに揺れる。
押さえろ、でも
引け、でもない。
大丈夫。
そんな揺れだった。
「まあ、いいや」
カイはそれ以上踏み込まない。
「今日、午後わりと自由なんだ」 「図書棟でも行く?」
人が多い場所。
昨日なら、避けていた。
でも今は――
横に、間に、見ている人がいる。
案内役の女性が、遠くで小さく頷いた。
今なら大丈夫。
そう言われた気がした。
「……行ってみる」
言葉にした瞬間、幼精霊の揺れが落ち着いた。
逃げていない。
越えてもいない。
人の中に立ったまま、選んだ。
それが、今までと違う。
「じゃ、決まりだな」
カイは笑う。
その笑顔を見ながら、俺は思った。
ここは、
問題を消す場所じゃない。
危険を切り離す場所でもない。
起きることを見た上で、間に人を置く場所だ。
影の中で、幼精霊が静かに揺れる。
前でも、横でもない。
続けていい。
そう言っているみたいだった。
更新がだいぶ遅くなってしまい、すみません……!
19:00予定でしたが、気づいたらこんな時間に。
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