表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✦ 『魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした』  作者: maruhiro
【第4章 選ばされる側――学園という制度】
53/68

── 第53話─居場所の音──


 昼の鐘は、朝より軽かった。

「終わり」じゃなくて、「区切り」みたいな音だ。

食堂を出たあとも、カイの言葉が残っていた。

残る、というより――頭の片隅に置かれている。


中庭へ向かう。

廊下の光が明るい。

人が増えている。

朝と違って、歩幅が揃っていない。

急ぐ者もいれば、寄り道する者もいる。

「……この時間、みんな出るんだな」

俺が呟くと、セイルは何も言わなかった。


中庭は、昨日見たより賑やかだった。

噴水の音。

笑い声。

本を開いたまま寝転ぶ学生。

木陰に集まって、何か小さな光を飛ばしてる連中もいる。

“魔術の練習”らしい。

でも、見せつける感じがない。

上手い奴が偉い、みたいな空気が薄い。

……薄い、だけで。

ゼロじゃない。

足元で幼精霊が、小さく揺れた。

前でも、横でもない。

“ここに立て”の揺れ。

俺は噴水から少し離れた石畳の端で足を止める。

止めた瞬間、揺れが収まった。

「……またか」

俺が小さく言うと、幼精霊は何も答えない。

ただ、影の中で落ち着いている。



「来たじゃん」

声がして、顔を上げる。

カイだった。

片手に飲み物の入った紙コップみたいなものを持っている。

「来ると思った」

カイは笑って、俺の隣じゃなく、少し斜め前に立った。

近すぎない。

でも、話せる距離。

「で、どこ出身?」

「……村」

「へえ」

軽い。

詰めてこない。

それでも質問はする。

その加減が、学園の空気なのかもしれない。

俺が答えに迷っていると、カイは別の話に切り替えた。

「昼はさ、ここで一回、頭を空っぽにするんだよ」

「空っぽ?」

「午前の授業って、わりとめんどい」

めんどい、という言い方が、子どもっぽい。

でも、それが逆に救いだった。

学園が“特別な場所”じゃなくなる。

「レン、授業は?」

「……まだ」

「そっか。まあ、滞在ならそうか」

受け止め方も軽い。

「変だな」と言われない。

それが一番変だ。

その時、少し離れた場所で、笑い声が大きくなった。

三人組の男子が、木陰で何かを飛ばしている。

小さな光。

蝶みたいに揺れて、空中で弾けた。

「お、あいつらまたやってる」

カイが楽しそうに言う。

俺は見てしまう。

見てしまった瞬間、幼精霊がわずかに揺れた。

引っかかる。

昨日より、はっきりした揺れ。

「……何だ?」

幼精霊は揺れを止めない。

止めないけど、近づくな、とも言わない。

“見すぎるな”みたいな揺れ。

俺は視線を外す。

外した瞬間、揺れが弱くなる。

「今、何見てた?」

カイが何気なく聞く。

普通の声。

普通の質問。

でも、俺の中で何かが固くなる。

答えようとして――言葉が出ない。

出ない、というより。

言い方を選んでいるうちに、時間が過ぎる。

カイは待たない。

「ま、いいや」

それだけで流した。

流せた。

村なら、そこで終わらなかった。

一度向けた質問は、答えが出るまで刺さる。

でも、ここは違う。

「レン」

カイが噴水を指さす。

「飲み物いる? 売ってる。甘いのもある」

「……いるかも」

「じゃ、行こ」

立ち上がった瞬間、幼精霊が小さく揺れた。

止めない。

押さない。

ただ、“同じ場所を通れ”みたいな揺れ。

俺は無意識に、さっき立っていた石畳の端を避けないように歩く。

避けると揺れが強くなる。

合わせると揺れが収まる。

「……面倒だな」

俺が呟くと、セイルが後ろで答えた。

「面倒で済むうちは、まだ、戻れる側だ」

内側。

その言葉が、胸の奥で引っかかる。

売店みたいな場所は、中庭の端にあった。

人が並んでいる。

でも、押し合わない。

順番が、順番のままだ。

カイが先に並び、俺は少し後ろに立つ。

セイルは、影が届く距離。

そのとき、売店の奥――木陰のさらに奥に、細い通路が見えた。

通路の先は暗い。

扉はない。

でも、“入るな”の気配だけがある。

幼精霊が揺れる。

強くはない。

でも、迷いがない。

越えるな。

俺は視線を逸らした。

逸らしたまま、列に戻る。

揺れが落ち着く。

「……レン?」

カイが振り返る。

「顔、固い。甘いのにする?」

「……甘いので」

「はい決まり」

笑われた。

軽く。

何も知らないまま。

それが、怖くて、ありがたい。


受け取った飲み物は、妙に甘かった。

甘いのに、喉は詰まらない。

中庭へ戻る。

さっきより少しだけ、足が軽い。

「なあ、レン」

カイが噴水の縁に腰を下ろす。

「明日、午前空いてたらさ、案内するよ」

「案内?」

「ここ、変なとこ多い。迷うとめんどい」

変なとこ。

俺は笑いそうになって、やめた。

笑うのは、まだ慣れていない。

「……考えとく」

「うん。考えとけ」

それだけで、今日の約束みたいなものが一つできた。

足元で幼精霊が、小さく揺れる。

前でも、横でもない。

“居る”の揺れ。

セイルが、ほとんど聞こえない声で言った。

「こういうのが、一番厄介だな」

「……何が」

「居場所ができると、人は戻れなくなる」

俺は返せなかった。

返さなくてもいい気がした。

中庭の音が、ちゃんとした生活の音のまま続いていたから。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

学園の「昼」は、出来事としては小さいですが、

レンにとっては初めて“逃げずに居た時間”でした。

ブクマや感想、とても励みになります 。

続きを読んでもらえたら嬉しいです。

※毎日19時頃更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ