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✦ 『魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした』  作者: maruhiro
【第4章 選ばされる側――学園という制度】
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── 第52話─食堂の朝──

朝の鐘は、思っていたより普通だった。

怖さを煽る音じゃない。

ただ、「起きろ」と伝える音。

居室の扉を開けると、廊下に人がいた。

昨日より多い。

制服の色が、ゆっくり動いている。

セイルは少し後ろ。

影が届く距離。

それで足りる。


「……食堂、ありますよね」

俺が言うと、案内役の女性が頷いた。

「あります。今日は人が多い時間ですね、避けますか?」

「……いや」

避けたら、また戻る気がした。

境目の街みたいに。

食堂は広かった。

木の匂い。

湯気。

金属の触れ合う音。

人の声が、ちゃんとある。

列に並ぶ。

順番を待つ。

それだけなのに、少し落ち着かない。

村では、列に並ぶたびに、

自分がどこに立たされるかを意識させられたから。

俺の番が来て、盆を受け取る。

パン。

スープ。

果物みたいなもの。

「……普通だな」

そう口に出した瞬間、隣から声がした。

「その言い方、初めて来たみたいな人だ」

振り向くと、同じ制服の男子が立っていた。

年は近い。

目つきは軽い。

でも、視線は逃げない。

「え、あ……」

「ここ、初日って顔してる」

男子は笑った。


悪意はない。

本当に、それだけ。

肩の力が、少し抜けた。

抜けたことが、少し怖い。

ここで気を抜いていいのか、まだ分からない。

「……初日じゃない」

「じゃあ二日目?」

「……そんな感じ」

男子は「ふーん」と言って、俺の盆を見る。

「それ、食べにくいだろ。席、こっち空いてる」

誘われた。

あまりにも自然に。

反射で断りかけて、止まる。

断る理由を探す。

探しても、見つからない。

足元で幼精霊が、ほんの小さく揺れた。

止めない。

押さない。

ただ、止めもしない揺れだった。

「……いいの?」

「いいよ。別に、一人席とか決まってないし」

それは許可というより、当たり前みたいな言い方だった。

席に座る。

男子が向かいに腰を下ろす。

すぐには話さない。

まず食べる。

その距離が、ありがたかった。


「名前、聞いていい?」


「……レン」

男子は頷いた。

「レンか。俺はカイだ」

それだけで、会話は続いた。

「……転入?」

また聞かれる。

でも今度は軽い。

ただの会話の形。

俺は、答え方を探す。

全部は言えない。

でも、嘘もつきたくない。

「……滞在」

「へえ。滞在って言い方するんだ」

男子は、そのまま受け取った。

「じゃあ、しばらく居るんだな」

“居る”と言われる。

追い出されない前提。

胸の奥が、少しだけ熱くなる。

それを感じるのが、少し怖い。

「……居るかもしれない」

男子はパンをちぎりながら言った。

「だったら、昼の中庭、来いよ」

「昼?」

「時間、教師に聞けば分かるよ」

俺は返事をしないまま、スープを飲む。

味は普通。


でも、喉は詰まらない。

食堂を出る時、セイルが小さく言った。

「初めてだな」

「なにが」

「最後まで、そこにいたな」

言われて、気づいた。

俺は逃げなかった。

止まって、座って、食べて、返事をした。


足元で幼精霊が揺れる。

前でも、横でもない。

小さく、落ち着いた揺れ。

“越えない”とは違う。

“居ていい”に近い。

廊下の窓から、中庭を見る。

明るい。

行くのは、まだ少し怖い。

でも、行かない理由も、もう薄い。

「……昼、行ってみる」

小さく言うと、

セイルは頷いただけだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

学園での「普通な朝」を描いた回でした。

ブックマークや感想、とても励みになっています 。

また次話で。

※毎日19時頃更新

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