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✦ 『魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした』  作者: maruhiro
【第4章 選ばされる側――学園という制度】
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── 第49話─次へ進める場所──



朝の廊下は、昨日より静かだった。

人がいないわけじゃない。

足音も、遠い話し声もする。

ただ、俺の周りだけ、空気が薄い。

「……慣れた、のかな」

呟くと、セイルが小さく息を吐いた。

「慣れじゃない。お前が、ここを“普通”だと思い始めてるだけだ」

普通。

その言葉が、少し怖い。



中庭に出る。

噴水の音。

風。

揺れる木々。

昨日と同じ景色なのに、足が勝手に止まった。

昨日、立てと言われた場所。

気づけば、そこへ来ていた。

影の中で幼精霊が揺れる。

警戒じゃない。拒否でもない。

**「ここ」**を指している揺れ。

「……なに、これ」

俺が言った時だった。


「おはよう」

背後から声がした。

振り返ると、談話室の初老の教師がひとりで立っていた。

白外套でも制服でもない。

境界が曖昧な装いのまま、穏やかな顔をしている。

「驚かせましたか」

「少し」

「それは、いい」

教師は、噴水の方を見たまま言った。

「昨日。ここで立っている時、あなたの足元の子が揺れましたね」

幼精霊のことを、“子”と言った。


「……見てたんですか」

「遠くから。必要以上に近づくのは、今は違う」

言い方に、押しつけがない。

「確認したいことが一つあります」

教師は、石畳を軽く指した。

「あなたはここで、何かを“感じた”。

 あなた自身は、それをうまく言葉にできない」

「……引っかかる、みたいな」

「ええ。それで十分です」

教師は頷く。

「学園は、まだ何も決めません。

 あなたに名前を付けない。分類もしない」

それは、昨日までと変わらない対応だった。

でも、教師は続けた。

「ただし――“確かめる”ことはします」

確かめる。


言葉が、少しだけ硬い。

「何を、ですか」

教師は、昨日と同じように急がなかった。

「どこで、あなたが“引っかかる”のか」

「どこで、引っかからないのか」

それだけ。

「つまり……場所?」

「場所です」

教師はきっぱり言った。

「あなたが危険だからではありません。

 あなたの周りで起きる“ズレ”が、どこから出てくるのかを知りたい」

ズレ。


俺は、喉が少し乾くのを感じた。

「それって……俺を試す、ってことですか」

教師は首を振った。

「試験ではありません」

「あなたに“正しい答え”を求めない。できることも増やさない」

一拍置いて。

「あなたが、そのままでいた時に、何が起きるかを知るだけです」

そのままで。

机の上に置かれていた言葉を、ふと思い出した。

教師は、掌を上に向けた。

「今日から、許可を一つ増やします」

「図書棟に入っていい」

「ただし、立ち入り禁止の区画には赤い札があります。そこは入らないでください」

それは、自由が増えた、というより。

“動ける範囲”が与えられたという感じだった。

「……なんで図書棟」

聞くと、教師は少しだけ笑った。

「静かで、人が多くて、魔術の痕跡も薄い。

 あなたにとって“普通”が揃っている場所です」

普通。

さっきの言葉が戻ってくる。

「そこで、同じ引っかかりが出るかどうか。

 出なければ、次へ進める」


次。

どこへ。

そこまでは言わない。

言わないから、余計に分かる。

「無理はしないでください」

教師は最後にそれだけ言って、去っていった。

残った空気が、少しだけ重い。

「なあ」

セイルが言った。

「優しい顔して、結構やることやってるな」

「……でも、縛ってはこない」

「縛る必要がないんだ」

セイルは、影の方を見た。

「お前が自分で歩くなら、それで十分」

俺は中庭の石畳を見る。

昨日と同じ場所。

昨日と同じ噴水の音。

でも。

今日は、“次へ進める”と言われた。

影の中で、幼精霊が小さく揺れた。

前でも、横でもない。

境目。

「……そのまま、でいろって」

俺は呟く。

「そのままじゃ、いられないってことか」

セイルは答えなかった。

答える必要がないほど、

それはもう、始まっていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

学園での時間が、少しずつ動き出しました。

続きが気になった方は、ブックマークや評価をしてもらえると励みになります 。

また次話で。

※毎日19時頃更新

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