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✦ 『魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした』  作者: maruhiro
【第4章 選ばされる側――学園という制度】
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── 第47話─そのままで──


朝の光は、やわらかかった。

居室の窓から差し込むそれは、管理区域の無機質な明るさとは違って、時間の流れを思い出させる。


起きる。

顔を洗う。

廊下に出る。

それだけで、少し安心する自分がいた。


セイルは、少し離れて付いてくる。

人に見られたくないわけじゃない。

ただ、俺の影が届く距離から外れない。

「おはようございます」

すれ違った制服の学生が、軽く頭を下げる。

目は合わせない。

でも、避けてもいない。

この場所の距離感は、そういうものらしい。


案内役の女性が現れたのは、その直後だった。

「今日は、少しお話を」

そう言って歩き出す。

向かった先は、教室でも実験室でもない。

小さな談話室だった。

丸い机。

椅子が四つ。

窓際には鉢植え。

向かいに座った初老の男性は、白外套でも制服でもなかった。

でも、教師だとすぐ分かる落ち着きがある。

「授業、というほどのものではありません」

その言い方が、最初から柔らかい。

「ここでは、まず“聞く”ところから始めます」

「……何を、ですか」

「あなたが、どう感じているかを」

それだけで、話は始まった。

「眠れましたか」

「……はい」

「食事は口に合いました?」

「普通でした」

男は、うんうんと頷くだけだ。

「ここに来て、怖さはありますか」

少し考えて、正直に答える。

「……あります」

男は笑った。

「それでいい」

評価もしない。

訂正もしない。

急いで答えを作らなくてもいい――そういう空気だけが残る。


「分からないことは、ありますか」

「……多すぎて」

「それも、いい」

それで終わった。

測られた感じはしない。

ただ、安心して言葉を吐けるそんな場所だった。


談話室を出ると、案内役の女性が次の場所へ向かう。

「少し、見ていってください」

連れて行かれたのは広い中庭だった。

石畳。

噴水。

風に揺れる木々。

学生たちが思い思いに過ごしている。

読書。

雑談。

遠くで、魔術の練習らしい光が弾けた。

「自由ですね」

思わず言うと、女性は頷いた。

「ここでは、そういう時間を大切にしています」

その言葉が、この学園をよく表している気がした。


「……何か、するんですか?」

「いいえ」

女性は立ち止まり、地面を指さす。

「ただ、ここに立ってください。……息を整えるだけで」

言われた通りに立つ。

風が吹く。

噴水の音がする。

何も、起きない。

……と思った、その時。

足元で、幼精霊が、微かに揺れた。

警戒でも、誘導でもない。

“引っかかる”みたいな揺れ。


俺は思わず、足元を見る。

「今の、分かりました?」

女性が聞く。

「……何か、ありました?」

「ええ」

彼女は遠くの噴水を見ながら言った。

「でも、答えは急ぎません」

この学園らしい言い方だ。

それ以上、何も言われなかった。


なのに、胸の奥に小さな引っかかりが残る。

「今日は、ここまでです」



帰りの廊下で、セイルが小さく言った。

「様子見だな」

「……分かる?」

「いや」

首を振る。

「見てるというより――待ってる」

待ってる。

その言葉が、妙にしっくり来た。

居室に戻ると、机の上に一枚の紙が置かれていた。

名前はない。

指示もない。

ただ、一行。


――そのままで。


幼精霊が小さく揺れる。

前でも、横でもない。

少し、留まれ。

そう言っているような揺れだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

学園での時間が、少しでも伝わっていたら嬉しいです。

続きが気になった方は、ブックマークや評価をしてもらえると励みになります 。

また次話で。

※毎日19時頃更新

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