── 第47話─学ぶための場所──
部屋を出ると、空気が少し変わった。
同じ学園の中のはずなのに、
さっきよりも、人の気配がある。
足音。
低い話し声。
遠くで、誰かが笑う声。
境目の街にはなかった音だ。
「ここから先は、居室区画です」
制服の女性が言う。
「学園に滞在する人が、休む場所です。
特別な施設ではありません」
休む場所。
その言葉に、胸の奥が少し緩んだ。
廊下は明るく、窓が並んでいる。
外の光が入り、時間の流れが分かる。
「……俺のこと、知られてはいないんですよね」
確認するように言うと、女性は小さく頷いた。
「ええ。今は」
「誰にも?」
「必要がない限りは」
隠す、というより――
静かにしている、という言い方が近かった。
「学園は、まず学びます」
女性は歩きながら続ける。
「分からないことは、すぐに答えを出さなくていいんです」
「ここでは、そういうふうにしています」
それは、
保留ではなく、
放置でもなく。
向き合う、という態度だった。
「食事は三食出ます。
無理に外に出る必要はありません」
「散歩もできます。
気分転換は大切ですから」
言い方が、教師のそれだった。
境目の街より、
ずっと“居てもいい”場所に思えた。
「……外を選んだら」
俺が聞くと、女性は歩みを緩めた。
「境界までは案内します」
「引き止めは?」
「しません」
即答だった。
「学園は、選択を尊重します」
守らない、でもない。
追い出す、でもない。
学ばない、という選択も含めて尊重する。
それが、逆に重い。
扉の前で立ち止まる。
木製の、普通の扉。
鍵は見えない。
「ここが、あなたの部屋です」
女性は微笑んだ。
「閉めなくても構いません。
ここは、あなたの場所ですから」
中には、寝台と机、椅子。
窓もある。
人が、生活する部屋だった。
影の中で、幼精霊が揺れる。
警戒ではない。
拒否でもない。
様子を見る揺れ。
「……悪くないな」
セイルが言った。
「学ぶには、悪くない環境だ」
廊下の奥から、人の気配が遠ざかる。
誰も見張らない。
誰も急かさない。
それでも――
ここに居れば、
何かが始まるのは分かる。
学園は、守るために在るわけじゃない。
裁くためでもない。
ただ、分かろうとしている。
足元で、幼精霊が小さく揺れた。
前でも、横でもない。
留まって、見てみろ。
そう言っているような揺れだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
学園編、少しずつ空気を感じてもらえたら嬉しいです。
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また次話で。
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