── 第46話─選択の条件──
扉が閉まる音は、静かだった。
重いはずなのに、音だけが軽い。
それが、この場所らしいと思った。
石の廊下は広く、天井が高い。
光はどこからか入っているのに、窓は見えない。
「……座って」
制服の女性に促され、椅子に腰を下ろす。
部屋は簡素だった。
机が一つ、椅子が三つ。
装飾はない。
落ち着く場所ではない。
判断を迫るための場所だ。
セイルは壁際に立ったまま動かない。
幼精霊は、影の中で静かだ。
白外套の男が、正面に立つ。
「まず、確認する」
声は淡々としていた。
「君は現在、王立魔術学園の保護下にある」
保護。
その言葉が、ここでは軽くない。
「だが――無条件ではない」
一拍。
「学園は、君に選択を求める」
俺は、顔を上げた。
境目の街では、
選択なんてなかった。
「二つある」
白外套の男は、指を一本立てた。
「一つ。学園に留まる」
「この場合、君は“例外対象”として登録される。行動には制限が付き、観察と記録が行われる」
登録。
記録。
街では、そんな言葉は出なかった。
「もう一つ」
指が、もう一本立つ。
「学園の保護を拒否する」
その瞬間、空気がわずかに張る。
「その場合、我々は君を守らない」
「境界の外に関与もしない」
それはつまり。
「……追ってきてる連中も?」
俺が聞くと、男は否定もしなかった。
「学園は、関知しない」
選択肢は、二つ。
どちらも、軽くない。
「今すぐ決めろ、とは言わない」
白外套の男は続ける。
「だが、長くは待てない」
「君の存在自体が、状況を動かしている」
世界が、俺を見ている。
その事実だけが、重くのしかかる。
足元で、幼精霊が揺れた。
今までみたいな、
「行け」でも
「ここでいい」でもない。
迷いの揺れ。
セイルが、初めて口を開いた。
「街とは違うな」
「ああ」
街では、
選ばなくても生きていけた。
ここでは、
選ばないこと自体が許されない。
「……考える時間は?」
俺がそう言うと、白外套の男は頷いた。
「与える」
「だが、君が“何もしない”という選択肢はない」
それだけ言って、踵を返す。
扉が開き、また閉まる。
部屋に残ったのは、俺とセイルと、影。
「どうする」
セイルは、答えを聞かなかった。
聞く必要がないからだ。
影の中で、幼精霊が小さく揺れる。
前でも、横でもない。
まだ、決めるな。
――決めた瞬間、戻れなくなる。
そう言っているような揺れだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
学園編、ようやく本題に入りました。
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また次話で。
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