── 第44話─置かれない場所へ──
境目があった。
壁でも扉でもない。
ただ、空気の感じだけが、はっきり変わっている。
一歩越えれば、戻れない。
理由は分からない。
でも、体が先に「ここは分かれ目だ」と判断していた。
足元で、幼精霊が揺れる。
迷いのない動きだった。
今までで一番はっきり、「進め」と伝えてくる。
「出るな」
セイルの声は低い。
止めるというより、最後に意思を確かめる声だった。
俺は一度だけ頷き、足を踏み出す。
――その瞬間。
背中に、ぞわりとした感覚が走った。
引き戻される感じじゃない。
触られたわけでもない。
見つかった。
「……来たな」
セイルが短く言う。
通路の奥が歪む。
壁が壊れたわけじゃない。
景色そのものが、無理やり開かれる。
そこから、三人が現れた。
黒い外套。
管理区域の巡回でも、来訪者でもない。
最初から「確保するつもり」で来ている歩き方だった。
中央の男が、感情のない声で告げる。
「対象確認」
「移送記録と照合する」
セイルが、すぐ前に出た。
「この場での照合は許可外だ」
「保留処理は、まだ有効だ」
男は、そこで初めて俺を見る。
「保留は解除された」
「管理区域を出た時点でな」
――その言葉で、全部が繋がった。
境目を越えた瞬間、
俺は「放っておける存在」じゃなくなった。
幼精霊が、強く揺れる。
前じゃない。
横――逃げ道だ。
「レン!」
セイルの声と同時に、俺は動いた。
考える前に、体が反応する。
空気が弾け、通路の景色が歪む。
足元の感覚が、すっと消えた。
落ちる感じはない。
代わりに、何かに引き抜かれる。
次に視界が戻ったとき――
そこは、もう管理区域じゃなかった。
空がある。
風がある。
遠くで、人の声が聞こえる。
セイルが、すぐ隣に立っている。
「……成功だ」
「何がですか」
「捕まる前に、外へ出た」
足元で、幼精霊が小さく揺れる。
警戒じゃない。
「それでいい」と言っている揺れだった。
俺は、ゆっくり息を吐く。
もう、引き返せない。
でも――
ここから先は、
誰かに勝手に決められる場所じゃない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ようやく「置かれる側」から一歩外に出ました。
少しでも続きが気になったら、
ブクマや顔マークで反応もらえると励みになります。
また次話で。
※毎日19時頃更新




