── 第43話─止まらない場所──
通路の空気が、一瞬だけ揺れた。
光ったわけでも、音がしたわけでもない。
でも、確かに“何かが走った”感覚があった。
「……今の、なんですか」
俺が言うと、セイルはすぐに首を振った。
「お前が何かしたわけじゃない」
即答だった。
「この場所が、反応しただけだ」
俺は周囲を見る。
壁も床も、さっきまでと同じだ。
異常なんて、どこにも見えない。
「ここはな」
セイルは歩きながら言う。
「決めないための場所だ」
分かるような、分からないような言い方だった。
「危ないから閉じ込めてる、とかじゃない」
「今すぐ答えを出せないものを、とりあえず置いておく」
「それだけの場所だ」
置いておく。
その言葉が、妙に引っかかる。
「……安全、なんですよね」
「事故は起きない。騒ぎも起きない」
セイルは否定しない。
「でも、それは“守られてる”って意味じゃない」
足元で、幼精霊が小さく揺れた。
さっきまでより、わずかに強い。
俺は立ち止まる。
通路は相変わらず同じ形だ。
同じ明るさ、同じ幅。
どこまで行っても、変わらない。
「ここにいると」
セイルが、少しだけ声を落とした。
「何もしなくても、時間だけは過ぎる」
「だから、長く置くには都合がいい」
都合がいい。
誰にとってだ。
「……俺にとっては?」
聞いてから、答えは分かっていた。
「お前は、まだ何者でもない」
セイルは淡々と言った。
「だから、ここにいる」
幼精霊が、また揺れる。
今度は、前だ。
はっきりと、進む方向を示す揺れだった。
守られている感じはしない。
閉じ込められている感じとも違う。
ただ、
ここにいれば、何も始まらない。
「……行きましょう」
俺は、息を吐いて言った。
セイルは一瞬だけ俺を見て、
それ以上何も言わずに歩き出した。
背後で、通路の空気が元に戻る。
何事もなかったみたいに。
でも俺は分かっていた。
今の揺れは、
この場所が“向いていない”って合図だった。
足元の幼精霊が、もう一度だけ揺れる。
今度は、迷いなく。
――止まるために、用意された場所じゃない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しずつ場所と立場が動いていく回でした。
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