── 第41話─sideエルド 「観測不能」──
水晶盤の表示が、また一段ずれた。
数値そのものは変わっていない。
魔力反応、因果係数、介入率――どれも許容範囲だ。
それなのに、結果だけが合わない。
「……遅いな」
エルドは小さく呟き、指先で盤面をなぞった。
再判定要請は、正しく投げられている。
権限も、手順も、問題ない。
それでも、返ってくるはずの応答が来ない。
管理区域への移送。
本来なら、そこで数値は落ち着く。
異常は隔離され、工程は静かに収束する。
――だが、今回は違った。
「保留、保留、保留……」
表示に並ぶ文字列を見て、エルドは眉を寄せる。
分類不能が続くこと自体は、珍しくない。
だが、“進行中”のまま止まるのは想定外だ。
まるで、どこかで処理が噛み合っていない。
「管理側で何か起きたか?」
部下に問いかけるが、返ってくるのは首を振る仕草だけだ。
異常報告はない。
事故も、衝突も、侵入もない。
――何も起きていない。
それが、いちばん引っかかった。
本来、異常は数値に出る。
出ないなら、起きていないということになる。
だが、結果は動いている。
「……観測不能、か」
思わず出た言葉に、エルド自身が違和感を覚えた。
不能、という分類は使わないはずだった。
測れないものは、測れる形に直す。
それが、こちら側の仕事だ。
水晶盤の端に、小さな揺らぎが走る。
誤差にも満たない変動。
だが、連続している。
「数値が……避けている?」
そんなはずはない、とすぐに否定する。
数値は意思を持たない。
逃げることも、選ぶこともない。
――ないはずだ。
エルドは、再判定の履歴を呼び出す。
対象名:レン。
初期判定:魂等級ゼロ。
「……ここだ」
初期判定の行。
そこだけが、今の状態と繋がっていない。
訂正すべきだったのか。
いや、訂正は可能だった。
だから再判定を投げた。
なのに、なぜ今になって噛み合わない。
「原因は……対象か?」
そう口にしてから、すぐに首を振る。
対象は、行動していない。
介入も、発動も、確認されていない。
それでも、工程だけが前に進む。
エルドは盤面を見つめたまま、しばらく動かなかった。
「……触る場所を、間違えたか」
誰に聞かせるでもない独り言だった。
だが、その言葉だけが、妙に重く残る。
管理区域は、今も静かなはずだ。
何も起きていない場所。
起きないように、整えられた場所。
そこに置いておけば、問題は拡がらない。
――そう、思っていた。
水晶盤が、もう一度だけ揺れた。
今度は、ほんのわずかに大きく。
エルドは、その変動から目を離せなかった。
「……まだ、動いているな」
それが安心なのか、
それとも不安なのか。
エルド自身にも、まだ分からなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
レンは相変わらず何もしていませんが、
周りだけが勝手に動き始めました。
本人はいちばん置いてけぼりです。
少しずつ「ズレの原因」が見えてきます。
もし続きを読みたいと思ってもらえたら、
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※毎日19時頃更新




