── 第38話─置かれた場所──
移動は、歩きだった。
足は前に出ている。
床も壁もある。
なのに、どれくらい歩いたのか分からない。
角を曲がった記憶はある。
けれど、同じ通路を何度も通った気もした。
距離と時間の感覚だけが、途中から曖昧になる。
セイルは何も言わない。
前を行く来訪者たちも、振り返らない。
目的地があることだけは、最初から決まっていて、途中のことは重要じゃないらしかった。
――気づいたとき、外に出ていた。
空はある。
だが、境目の街の空とは違う。
色が薄く、雲の動きも遅い。
建物が並んでいる。
倉庫にも役所にも見える、用途の分からない建物ばかりだ。
人影はある。
けれど、誰もこちらを見ない。
いや――
見ていないふりをしている。
「ここが、次の滞在場所だ」
向かいの人物が言った。
説明はそれだけだった。
「管理区域」
「ただし、所属は未定」
未定。
建物の中へ入る。
白い部屋ほど不自然じゃない。
けれど、落ち着く感じもしない。
壁に、板が一枚固定されている。
一瞬だけ、文字が浮かんだ。
『移送完了』
『再判定:継続』
『管理責任:未割当』
つまり――
俺は、ここに置かれただけだ。
セイルは、少し離れた位置で立ち止まった。
近すぎず、遠すぎない距離。
守っているのか、見張っているのか、分からない立ち方だ。
少し離れた場所で、小声のやり取りが聞こえた。
「……例の件、もう動いたか」
「動いた。保留のまま移した」
「エルドは?」
「表には出ていない。だが、痕跡は残っている」
俺の名前は出ない。
でも、話しているのが俺のことだと分かる。
「分類不能を、これ以上抱えるのは危険だ」
「だが、今は切れない」
「切れば、歪みが大きくなる」
会話は、そこで終わった。
結論は出ていない。
ただ、扱いに困るものを後ろへ送った、そんな感じだけが残る。
俺は、小さく息を吐いた。
ここに来ても、何かを選んだ覚えはない。
拒否したわけでも、受け入れたわけでもない。
それでも――
確実に、場所は変わった。
境目の街は、もう見えない。
戻れるかどうかも分からない。
(……また一段、外に出たな)
足元で、幼精霊の気配が静かに揺れた。
離れない。
ついてきている。
そのとき、背中に一瞬だけ、ぞくりとした感覚が走る。
見られている、というより――
数えられている感じだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
レンはまた一つ、よく分からない場所に“置かれました。
まだ何も決まっていませんが、少しずつ状況は動いています。
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※毎日19時頃更新




