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── 第35話─選ばれる側──

※仕事の都合で更新が遅くなりました。

お待たせしました。よろしくお願いします。

 



 白い部屋は、相変わらず静かだった。

 静かすぎて、自分の呼吸だけがやけに大きく聞こえる。

 向かいに座る人物は、机の上の薄い板を閉じたまま、俺を見ていた。

 表情は動かない。

 見ているのに、何を考えているのか分からない。



「さっき言った通りだ」

 淡々とした声。

「次は、君が“選ばれる側”になる」

 選ばれる。

 その言葉が、胃の奥に引っかかる。

(俺が選ぶんじゃない。

 誰かに決められるってことだ)

 板が、もう一度机の上に置かれる。


「誤解しないでほしい」

「君を罰するわけではない」

 そう言われても、全然安心できない。


「確認するのは一つだけだ」

「君は、“自分の意思で動いているか”」

 俺は思わず聞き返した。

「……動いてますけど」

「歩いてるし、話してるし」

「それは“結果”だ」

「問題なのは、“始まり”の部分だ」

 

 始まり。

 意味が分からない。


「今から、簡単なテストをする」

「危険はない」

 その言い方が、いちばん不安にさせた。


 相手が指先を机に触れた。

 音はしない。

 なのに、足元の感覚が少し変わる。

 椅子が、わずかに動いた。

 本当に、ほんの一センチ。

 俺は反射的に踏ん張ろうとした。

 ――その瞬間。

 踏ん張る“手前”で、体の感覚が途切れた。

 力が抜けたわけじゃない。

 動こうとする気持ちもある。

 なのに、その先が続かない。

 椅子はそれ以上動かず、止まった。


「……今のだ」

 向かいの人物が言った。

「君は止めようとした」

「だが、“止める”という行動が成立していない」

 喉が詰まる。

「俺、今……ちゃんと踏ん張ろうとしました」

「それが問題だ」

「“しようとした”で終わっている」

 相手は板に視線を落とす。

「本来なら、ここで反応が出る」

「だが、出ない」

「君の内側ではなく、外側で処理されている」

 外側………。


 そのときだった。

 部屋の隅に立っていた、鏡みたいな板が光った。

 さっきまで何も映していなかったはずなのに。

 文字が浮かぶ。

 はっきり読める。

『再判定要請』

『担当:エルド』

 心臓が一気に跳ねた。

「……え?」

 相手が初めて、はっきり表情を変えた。

「ここに割り込む権限はないはずだ」

 その言葉で分かった。

 今のは、予定されていた確認じゃない。

 白い部屋の外から、足音が聞こえる。

 一人じゃない。複数だ。

 扉の向こうで、セイルの声がした。

「レン、聞こえるか」

 いつもより近い。

 そして、明らかに焦っている。

「動くな」

 向かいの人物が言った。

「今、動くと――」

 言葉が途中で切れた。


光が強くなり、視界が白く染まる。


(あ、これ――まずいやつだ)


 そう思っただけなのに、背中に冷たい汗が流れた。

 体は動かない。

 止めようとも、受け入れようともしていない。

 ただ、次の瞬間が来ようとしている。


 白い部屋が、音もなく“別の状態”に移ろうとしていた。


 誰が始めたのかは分からない。

 エルドなのか、この場の人物なのか。

 それとも――もっと別の何かか。


 はっきりしているのは一つだけだ。


 これは、

 俺が選んだわけでも、

 拒んだわけでもない。


 俺の知らないところで、

 話が一段、先に進んだ――。

読んでくださってありがとうございます。

ブックマークや顔マーク、そっと押してもらえたら嬉しいです。


※毎日19時更新

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