── 第34話─確認はまだ終わっていない──
白い部屋は、静かだった。
静かすぎて、音の行き先が分からない。
ただ、視線だけがはっきり残る。
向かいの椅子に座った人物は、名を名乗らなかった。
旅人の格好でも、官の服でもない。
どちらにも見える、どちらでもない立ち方。
「楽にしていい」
そう言われて、逆に体が固まった。
机の上に、薄い板が置かれる。
水晶盤じゃない。
映らないのに、見られている気がする板だ。
「確認は済んでいる」
淡々とした声。
「君が“何かをした”痕跡はない」
「だが、結果だけ出ている」
俺は思わず口を開いた。
「それ、俺のせいなんですか」
一瞬、沈黙が落ちた。
ほんの一瞬だけ、相手の指が止まる。
「……因果の位置が合わない…………
初期の判定と、現在の状態が噛み合っていない」
独り言のように、俺を見ていない。
(知らねーよ……)
喉まで出かけて、飲み込む。
言っても意味がないのは、もう分かってる。
「君は、自分をどう思っている」
急に話題が変わった。
「え?」
「力があると思うか。危険だと思うか」
俺は少し考えてから答えた。
「……何もできないと思ってます……
やろうとしても、だいたい途中で終わるし」
相手は板に何かを書き込む。
ペンの音がしないのに、書かれているのが分かる。
「自己認識と、外部評価が一致している」
それが、どういう意味かは分からない。
分かりたくもない。
「ただし」
その一言で、空気が少し重くなる。
「一致しているのに、世界の反応だけが違う」
板の表面に、かすかな揺れが走った。
「本来なら、ここで修正が入る」
「だが――入っていない」
また、指が止まる。
「……いや。入れられていない」
その言い直しが、妙に引っかかった。
「俺、どうなるんですか」
今度は、ちゃんと俺を見た。
「まだ決まっていない」
正直な答えだった。
「ただし」
「このまま“放置”はできない」
「君の意思とは関係なく、状況だけが進む」
俺は肩をすくめた。
「何もしてないのに、ここまで来てますからね」
相手は否定しなかった。
「だから、ここにいる」
幼精霊の気配が、足元で小さく揺れた。
離れない。
それだけが、俺の現実だった。
「最後に一つだけ聞く」
相手が言う。
「君は――逃げたいか」
少し前なら、即答してたと思う。
でも今は、分からなかった。
「逃げようとしても、最後まで行かない気がするので……」
自分で言って、苦笑する。
相手は、ほんのわずかに目を細めた。
「その答えは、記録に残らない」
「だが、重要だ」
板が閉じられる。
「今日はここまでだ」
「次は――君が“選ばれる側”になる」
椅子から立たされる。
拒否も、同意も求められない。
扉が開く直前、背中越しに声が落ちてきた。
「安心しろ」
「これは、君の意思とは関係なく始まった」
――それが、いちばん安心できなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
レンは何もしていないのに、周囲だけが先に進んでいます。
この先は「力」では測れない話になります。
気になったら、ブクマで続きを追ってもらえると嬉しいです。
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