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── 第31話─何もしていないのに──

 


 歩いている。

 ちゃんと、自分の足で。

 引きずられているわけじゃないし、縛られてもいない。

 それが逆に、落ち着かない。

 

(……待てよ)

 

 俺、何かやったか?

 殴ってない。

 命令してない。

 魔法も使ってない。

 むしろ、目立たないように生きてきた。

 

(それで「分類不能」とか言われて回収って、理不尽すぎない?)

 

 歩幅を揃えている来訪者たちは、振り返らない。

 説明もしない。

 ただ「手順通り」に進んでいるだけだ。

 

 セイルが隣にいるのが、まだ救いだった。

 でも――

 

(セイルも、助けてくれる側ってより「分かってる側」なんだよな)

 

 それが分かるから、余計に言葉が詰まる。

 

 

 通りを抜けると、街の音が薄くなった。

 怒鳴り声も、笑い声も、遠い。

 代わりに聞こえるのは、靴底と石畳の音だけ。

 

 レンは、つい口に出していた。

「……俺、何もしてないですよね」

 

 来訪者は反応しない。

 セイルだけが、ちらりとこちらを見る。

 

「してないな」

 

 あっさり言われて、少し拍子抜けする。

 

「ですよね?」

「だから、ここにいる」

 

 フォローなのか、追い打ちなのか分からない。

 

「普通さ、何かやったやつが捕まるんじゃないんですか」

「普通はな」

 

 セイルは前を見たまま言った。

 

「だが今回は逆だ。

 何もやってないのに、全部止まる。

 それが一番、扱いに困る」

 

(うわ、最悪だ)

 

 レンは内心で呻いた。

 

(優等生すぎて職員室呼ばれるタイプじゃん)

 

 

 前世の記憶が、ふっとよぎる。

 

 絡まれて。

 睨まれて。

 殴られると思って身構えて――

 

「……まあ、いいか」

 

 相手がそう言って去っていく。

 

 助かった、と思っていた。

 運が良かっただけだと。

 

 でも今なら分かる。

 

(あれ、俺が止めたんじゃなかった)

(相手が諦めたんでもなかった)

 

 “続き”が、成立しなかっただけだ。

 

(それを今さら「異常です」とか言われてもな……)

 

 喉が乾く。

 笑う余裕もない。

 

 

 来訪者の一人が、歩きながら言った。

 

「対象は自覚が薄い」

 

 独り言みたいな声。

 でも、確実に聞こえる距離。

 

 レンは思わず言い返していた。

 

「そりゃ薄いですよ。

 だって俺、ほんとに何もしてないんですから」

 

 一瞬だけ、足音が乱れた。

 

 誰かが、レンを見た。

 ほんの一瞬。

 

 評価でも敵意でもない。

 

(……あ、今の「想定外」だ)

 

 そう感じて、逆に少し落ち着く。

 

 

 レンは息を吐いた。

 

(怖いのは変わらない)

(逃げたい気持ちもある)

 

 でも――

 

(意味分かんないまま黙って連れて行かれるのは、もっと嫌だ)

 

 だから、決める。

 覚悟じゃない。

 決意でもない。

 

 ただの本音だ。

 

(俺は、何もしてない)

(それだけは、譲らない)

 

 歩調を落とさず、レンは前を見た。

 

 来訪者たちは、相変わらず淡々としている。

 世界は、相変わらず勝手だ。

 

 それでも。

 

 レンは、自分がまだ「考えている側」だと知っていた。

ここまでお付き合いありがとうございます。

レン本人は本気で「何もしていない」だけなのに、

周りだけが勝手に深刻になっています。

少し重たくなりすぎていたので、今回は気持ちをそのまま出してみました。

このズレたまま進んでいく感じを、気楽に楽しんでもらえたら嬉しいです。

ブックマークや感想をもらえると、続きを書く力になります。

また次話で。

※毎日19時更新

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