── 第31話─何もしていないのに──
歩いている。
ちゃんと、自分の足で。
引きずられているわけじゃないし、縛られてもいない。
それが逆に、落ち着かない。
(……待てよ)
俺、何かやったか?
殴ってない。
命令してない。
魔法も使ってない。
むしろ、目立たないように生きてきた。
(それで「分類不能」とか言われて回収って、理不尽すぎない?)
歩幅を揃えている来訪者たちは、振り返らない。
説明もしない。
ただ「手順通り」に進んでいるだけだ。
セイルが隣にいるのが、まだ救いだった。
でも――
(セイルも、助けてくれる側ってより「分かってる側」なんだよな)
それが分かるから、余計に言葉が詰まる。
◆
通りを抜けると、街の音が薄くなった。
怒鳴り声も、笑い声も、遠い。
代わりに聞こえるのは、靴底と石畳の音だけ。
レンは、つい口に出していた。
「……俺、何もしてないですよね」
来訪者は反応しない。
セイルだけが、ちらりとこちらを見る。
「してないな」
あっさり言われて、少し拍子抜けする。
「ですよね?」
「だから、ここにいる」
フォローなのか、追い打ちなのか分からない。
「普通さ、何かやったやつが捕まるんじゃないんですか」
「普通はな」
セイルは前を見たまま言った。
「だが今回は逆だ。
何もやってないのに、全部止まる。
それが一番、扱いに困る」
(うわ、最悪だ)
レンは内心で呻いた。
(優等生すぎて職員室呼ばれるタイプじゃん)
◆
前世の記憶が、ふっとよぎる。
絡まれて。
睨まれて。
殴られると思って身構えて――
「……まあ、いいか」
相手がそう言って去っていく。
助かった、と思っていた。
運が良かっただけだと。
でも今なら分かる。
(あれ、俺が止めたんじゃなかった)
(相手が諦めたんでもなかった)
“続き”が、成立しなかっただけだ。
(それを今さら「異常です」とか言われてもな……)
喉が乾く。
笑う余裕もない。
◆
来訪者の一人が、歩きながら言った。
「対象は自覚が薄い」
独り言みたいな声。
でも、確実に聞こえる距離。
レンは思わず言い返していた。
「そりゃ薄いですよ。
だって俺、ほんとに何もしてないんですから」
一瞬だけ、足音が乱れた。
誰かが、レンを見た。
ほんの一瞬。
評価でも敵意でもない。
(……あ、今の「想定外」だ)
そう感じて、逆に少し落ち着く。
◆
レンは息を吐いた。
(怖いのは変わらない)
(逃げたい気持ちもある)
でも――
(意味分かんないまま黙って連れて行かれるのは、もっと嫌だ)
だから、決める。
覚悟じゃない。
決意でもない。
ただの本音だ。
(俺は、何もしてない)
(それだけは、譲らない)
歩調を落とさず、レンは前を見た。
来訪者たちは、相変わらず淡々としている。
世界は、相変わらず勝手だ。
それでも。
レンは、自分がまだ「考えている側」だと知っていた。
ここまでお付き合いありがとうございます。
レン本人は本気で「何もしていない」だけなのに、
周りだけが勝手に深刻になっています。
少し重たくなりすぎていたので、今回は気持ちをそのまま出してみました。
このズレたまま進んでいく感じを、気楽に楽しんでもらえたら嬉しいです。
ブックマークや感想をもらえると、続きを書く力になります。
また次話で。
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