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── 第26話─気づく側──


 境目の街の朝は、いつもより静かだった。

 夜の名残が通りに残り、人の動きは遅い。

 露店が準備を始め、巡回が交代する。

 いつも通りの風景――のはずだった。

 

 

 街の外れから、一人の旅人が入ってきた。

 荷は少ない。

 武器も目立たない。

 服装も、歩き方も、ごく普通。

 それなのに。

 門番は声をかけるタイミングを逃した。

 理由は分からない。

 気づいたときには、旅人はもう通りを歩いていた。

 

 

 旅人は、街の中心へ向かわなかった。

 広場も、噴水も、賑わう通りも避ける。

 代わりに、裏道や路地を選んで歩く。

 そこで起きていたのは――

 口論しかけて、やめる人。

 手を伸ばしかけて、引っ込める人。

 理由もなく、終わるやり取り。

 旅人は足を止めない。

 ただ、一度だけ周囲を見回した。

「……ふむ」

 それだけ言って、歩き続けた。

 

 

 一方、宿の二階。

 レンは、窓辺で通りを眺めていた。

 特別なことは、何もない。

 人が歩き、声がして、街が動いている。

 それなのに――

 胸の奥に、引っかかるものがあった。

 視線を感じたわけじゃない。

 危険を察したわけでもない。

 ただ、

 見てはいけないものを見逃しそうな感覚。

 

 

 レンが一階へ降りたときだった。

 宿の入口で、誰かと目が合う。

 旅人だった。

 一瞬だけ。

 本当に一瞬。

 旅人の視線が、レンで止まる。

 それだけで、十分だった。

 言葉はない。

 表情も変わらない。

 それなのに、レンは分かった。

(……この人、変だ)

 

 

 旅人は、先に視線を外した。

 何事もなかったように、宿を出ていく。

 レンは、その背中を見送った。

 理由は分からない。

 何をされたわけでもない。

 それでも――

 胸の奥の違和感だけが、消えなかった。

 足元で、幼精霊が小さく揺れる。

 まるで、

 「気づいたな」と言うみたいに。

 

 境目の街は、今日も穏やかだ。

 喧嘩は起きない。

 争いも始まらない。

 だが、

 “いつもと違う人間”が入ってきた。

 それだけで、

 街の空気は、確かに変わり始めていた。

境目の街で起きていることが、ようやく形になり始めました。

次回から、動く側の視点が増えていきます。

よければブックマークして続きを追ってもらえると嬉しいです。

※毎日19時更新

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