── 第24話─異常が正常になる夜──
境目の街で続く、静かすぎる日常。
何も起きない――それ自体が、少しずつ形を持ち始めています。
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※毎日19時更新
境目の街の夜は、静かだった。
昼間の喧騒が嘘のように、人の声はまばらだ。
それでも、完全に止まることはない。
酒場の灯り、宿屋の出入り、巡回の足音。
――いつも通りの夜。
少なくとも、街の側から見れば。
◆
街の外れにある小さな詰所で、観測官は水晶盤を睨んでいた。
「……おかしいな」
何度確認しても、結果は変わらない。
・魔力反応あり
・感情反応あり
・敵意反応あり
それなのに。
「行動が、発生していない」
本来なら、境目の街では必ず揉め事が起きる。
怒鳴り声、殴り合い、最悪の場合は流血。
それが――
全部、直前で止まっている。
「抑制結界……じゃないな」 「吸収でも、反射でもない」
観測官は記録紙を見下ろした。
「……そもそも、止めている“痕跡”がない」
力を使った形跡が、どこにも残っていない。
「つまり」
ペンを置く。
「止めてるんじゃない。
始まってすらいない」
◆
一方、宿の二階。
セイルは、レンの部屋の前で立ち止まっていた。
中は静かだ。
眠っているのか、考え込んでいるのか。
(街が慣れ始めている)
それが、一番まずい。
異常が続けば、人は警戒する。
だが、異常が「普通」になると、誰も止められなくなる。
(俺の想定より、早いな)
境目の街に連れてきた理由は単純だった。
偶然では済まされない場所で、偶然じゃないと証明するため。
だが、証明されるより先に、
監視する側が気づき始めている。
◆
再び、詰所。
観測官は報告書に、はっきりと書き込んだ。
『対象不明』 『力の発動なし』 『行動阻害の原因、特定不可』
そして、最後に一文。
『本現象は「能力」ではない可能性が高い』
報告を封印する。
「……これは、俺の判断じゃないな」
確実に、上へ回る内容だった。
◆
セイルは、静かに踵を返した。
レンには、まだ話さない。
だが、決めている。
このまま隠すことはできない。
守るだけでも足りない。
次は、レン自身が“選ばされる”。
境目の街は、今夜も平穏だ。
喧嘩は起きない。
争いも起きない。
だが、それは安心の証じゃない。
異常が、正常として扱われ始めた証拠だった。
――そして翌日。
境目の街に、
本来ここへ来ないはずの存在が足を踏み入れた。
静かなままの街に、
いつもとは違う視線が混じり始めています。
次は、
この場所に本来いないはずの存在が動きます。
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