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── 第21話─記録に残らない違和感──

境目の街に入り、

表向きは何も起きていない――はずの時間が続いています。

今回は、街の側から見た「違和感」と、

まだ名前を与えられない“兆し”の話です。

気に入っていただけたら、

ブックマークしてもらえると励みになります。

※毎日19時更新

 


 境目の街の管理帳をつけて、もう十年以上になる。

 喧嘩、揉め事、盗難未遂。

 多い日は、午前中だけで三件は報告が上がる。

 それが――

 

 今日に限って、何もない。

 

 

 帳面をめくる。

 昨日の欄にも、今日の欄にも、同じ文字が並んでいる。

「特記事項なし」

 間違いじゃない。

 実際、苦情は来ていない。

 通行人同士の口論もなかった。

 露店の値切りが揉めることもない。

 護衛が剣に手をかけた形跡すらない。

 

 ……助かる。

 仕事としては、間違いなく助かっている。

 なのに。

 

「静かすぎるな」

 

 隣の机で、同僚が同じことを呟いた。

 こちらを見るでもなく、帳面を見つめたまま。

 

「昨日も、こんな感じだったか?」

「……ああ。たぶんな」

 

 どちらも、確信がない。

 記録は残っている。

 数字も合っている。

 それでも、

 一日が、きれいに繋がっていない感覚が残る。

 

 

 街を歩く。

 人はいる。

 声もある。

 ただ、ぶつからない。

 誰かが早足になれば、自然に道が空く。

 言葉が強くなりかけると、続きを言わない。

 

 原因を探す気にはならなかった。

 探したところで、

 「特別な何か」が見つかる気がしない。

 

「まあ、こういう日もあるか」

 

 自分に言い聞かせるように呟いて、歩き続ける。

 それ以上、考えなかった。

 考えない方が、街はうまく回っている。

 

 

 ――同じ頃。

 

 街から少し離れた場所で、

 一人の観測係が、水晶盤を見つめていた。

 

「……出ない?」

 

 数値はゼロではない。

 だが、増減もしない。

 揺らぎも、反応もない。

 

 本来、何かが起きれば――

 魔力でも、意思でも、必ず痕跡が残る。

 なのに。

 

「結果だけが、先にある……?」

 

 盤面を叩き、再計測する。

 同じ。

 

 攻撃反射ではない。

 吸収でもない。

 抑制でも、干渉でもない。

 

 向けられたはずの“意思”が、成立していない。

 

「……分類不能」

 

 記録用紙に、そのまま書き込む。

 報告は上げる。

 判断は、上がする。

 自分はただ、事実を書くだけだ。

 

 だが――

 

「……こんな例、あったか?」

 

 問いは、宙に残った。

 

 

 境目の街では、今日も何事もなく日が暮れていく。

 人々は、それを平和だと思っている。

 管理帳には、また一行。

「特記事項なし」

 

 誰も気づいていない。

 意思が、行動になる前でほどけていることに。

 

 そしてそれが、

 “珍しくない街”で起きているという事実だけが、

 静かに積み重なっていった。

 

 ――何も起きない。

 それ自体が、

 異常だと気づく者は、まだ少ない。

街の側にも、少しずつ違和感が出始めました。

まだ何も起きていませんが――それ自体が変化です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

よければブックマークして続きを追ってもらえると嬉しいです。

※毎日19時更新

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