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── 第17話─距離を測る獣──

境目へ向かう道中での、小さな出来事です。

派手な事件はありませんが、

この世界の「距離感」が、少しだけ見えてくる回になっています。

※毎日19時更新



 境目の街が近づくにつれ、街道の両脇は深くなっていた。

 人の往来はあるが、森はすぐそこだ。

 

 

 セイルが足を止めた。

 俺も止まる。

 視線の先、草の陰が揺れた。

 ――灰色。

 犬より小さく、丸まった背中。

 毛並みは粗く、どこか幼い。

 魔獣だとわかった。

 

 それでも、襲ってこない。


 低く身構えたまま、こちらを見ている。

 

 

 魔獣は一歩も街道に踏み出さない。

 草の縁で止まり、首を傾げる。

 距離を測るように、じっとこちらを見ている。

 

 幼精霊が、気づかないほど小さく揺れた。

その瞬間、魔獣の肩から力が抜けた。


 


 張りつめていた背中が、少し丸くなる。

 それだけで、敵意がないことが分かった。



 

 俺は、何もしていない。

 手も伸ばしていない。

 ただ、立っているだけだ。

 

 それでも、魔獣は一歩下がった。

 逃げるほどでもなく、近づくでもなく。

 

 

 セイルが、何も言わずに様子を見ている。

 止めもしない。

 促しもしない。

 

 しばらくして、魔獣は地面に腹をつけた。

 伏せる、というより、力を抜いたような動き。

 

 

 次の瞬間、幼精霊がふっと後ろへ下がった。

 魔獣はそれを見て、立ち上がる。

 一歩、二歩。

 そして、森へ消えた。

 

 

 街道には、何も残らなかった。

 

 セイルが歩き出す。

 俺も続く。

 

「……さっきの」

 言いかけて、やめた。

 

 セイルは振り返らない。

 ただ一度だけ、言った。

「覚えておけ」

 

 それだけだった。

 

 

 街道は、また静かだった。

さっきまで、何かがそこにいた気配だけを残して。

街道での出来事は、ほんの一瞬でした。

けれど、レンにとっても、周囲にとっても、

確実に「何か」が伝わった場面だったと思います。

次は、境目の街に入ってからの話になります。

引き続き、読んでいただけたら嬉しいです。

※毎日19時更新

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