── 第14話─境目へ、止まらなかった足──
村を出てからの道中を描く回です。
まだ答えは出ていません。
ただ、立ち止まらずに歩いている、そんな時間になります。
※毎日19時更新
村を出てから、どれくらい歩いただろうか。
道はまだ整っている。
畑も、民家も、遠くには見える。
けれど――もう、振り返る気にはならなかった。
セイルは前を歩く。
歩幅は一定で、無駄がない。
俺に合わせているようで、そうでもない。
沈黙が続いていた。
気まずさというより、
考えをまとめる前に、足だけが先へ進んでいく感覚に近い。
「問題はないな?」
前を向いたまま、セイルが言う。
「……大丈夫です」
体が辛いわけじゃない。
ただ、状況を飲み込むのが追いついていないだけだ。
セイルはそれ以上、何も言わなかった。
歩調だけを保ったまま、先へ進む。
◆
道の脇、草の揺れに視線を向ける。
幼精霊が、少し遅れてついてきていた。
近づきすぎず、離れすぎず。
距離を測るように、一定の位置を保っている。
「……まだいるな」
セイルが、低く呟いた。
「離れる気配はなさそうです」
そう答えると、セイルは短く息を吐いた。
「そうか...」
「呼んだ覚えは、ないんですよね」
「ああ。だから厄介だ」
言葉は淡々としているが、拒絶の色はない。
「選ばれた、というより……」
少し考えてから、セイルは続けた。
「居心地の悪くないというだけだ」
幼精霊は、それを肯定も否定もせず、
変わらない距離で、またついてくる。
◆
「……どこへ行くんですか」
歩きながら、ようやく聞いた。
セイルは、少しだけ間を置く。
「境目の街だ」
「境目?」
「どこにも属しきらない場所だ。
管理は緩いが、人も情報も流れ込む」
正式な名前は出さない。
説明も、最低限だった。
「君をどう扱うか。
それを決めるには、都合がいい」
“扱う”という言葉は冷たい。
けれど、隠さないのが、セイルらしかった。
「守ってくれる、わけじゃないですよね」
即座に返ってくる。
「違う」
短く、はっきりと。
「放っておけなくなった。
それだけだ」
それは使命でも理屈でもない、もっと個人的な判断だった
◆
道は、ゆっくりと下りに入る。
村の景色は、もう見えない。
俺は一度だけ、幼精霊を見た。
逃げる気配も、戻る様子もない。
「……行くんだな」
誰に向けた言葉かは、自分でも分からない。
セイルは答えない。
ただ、歩き続ける。
幼精霊も、静かについてくる。
俺はまだ、自分がどこへ連れて行かれているのかを知らない。
それでも――
足は、止まらなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は移動中の一幕でした。
次回、少しだけ状況が動きます。
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