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── 第14話─境目へ、止まらなかった足──

村を出てからの道中を描く回です。

まだ答えは出ていません。

ただ、立ち止まらずに歩いている、そんな時間になります。


※毎日19時更新


 


 村を出てから、どれくらい歩いただろうか。


 道はまだ整っている。

 畑も、民家も、遠くには見える。

 けれど――もう、振り返る気にはならなかった。


 セイルは前を歩く。

 歩幅は一定で、無駄がない。

 俺に合わせているようで、そうでもない。


 沈黙が続いていた。


 気まずさというより、

 考えをまとめる前に、足だけが先へ進んでいく感覚に近い。


「問題はないな?」


 前を向いたまま、セイルが言う。



「……大丈夫です」

体が辛いわけじゃない。

 ただ、状況を飲み込むのが追いついていないだけだ。


 セイルはそれ以上、何も言わなかった。

 歩調だけを保ったまま、先へ進む。

 



 


 道の脇、草の揺れに視線を向ける。


 幼精霊が、少し遅れてついてきていた。

 近づきすぎず、離れすぎず。

 距離を測るように、一定の位置を保っている。


「……まだいるな」


 セイルが、低く呟いた。


「離れる気配はなさそうです」


 そう答えると、セイルは短く息を吐いた。


「そうか...」


 


「呼んだ覚えは、ないんですよね」


「ああ。だから厄介だ」


 言葉は淡々としているが、拒絶の色はない。


「選ばれた、というより……」

 少し考えてから、セイルは続けた。

「居心地の悪くないというだけだ」


 幼精霊は、それを肯定も否定もせず、

 変わらない距離で、またついてくる。

 



 


「……どこへ行くんですか」


 歩きながら、ようやく聞いた。


 セイルは、少しだけ間を置く。


「境目の街だ」


「境目?」


「どこにも属しきらない場所だ。

 管理は緩いが、人も情報も流れ込む」


 正式な名前は出さない。

 説明も、最低限だった。


「君をどう扱うか。

 それを決めるには、都合がいい」


 “扱う”という言葉は冷たい。

 けれど、隠さないのが、セイルらしかった。


「守ってくれる、わけじゃないですよね」


 即座に返ってくる。


「違う」


 短く、はっきりと。


「放っておけなくなった。

 それだけだ」


 それは使命でも理屈でもない、もっと個人的な判断だった


 



 


 道は、ゆっくりと下りに入る。


 村の景色は、もう見えない。


 俺は一度だけ、幼精霊を見た。

 逃げる気配も、戻る様子もない。


「……行くんだな」


 誰に向けた言葉かは、自分でも分からない。


 セイルは答えない。

 ただ、歩き続ける。


 幼精霊も、静かについてくる。


 俺はまだ、自分がどこへ連れて行かれているのかを知らない。


 それでも――

 足は、止まらなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は移動中の一幕でした。

次回、少しだけ状況が動きます。

※毎日19時更新

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