── 第13話─外の世界へ──
前話から少し視点が続きます。
村編の一区切りとして、静かに次へ進む回です。
※毎日19時更新
セイルが村に姿を現したのは、朝靄がまだ残る時間だった。
前に来たときと同じ外套。 同じ歩き方。
けれど、視線だけが違っていた。
一直線に――レンを見る。
◆
「来たんだね」
リナが小さく言った。
セイルはうなずくだけで、周囲を見回さない。 幼精霊の気配に、ほんの一瞬だけ視線を走らせる。
――やはり、いる。
確信が深まっただけだった。
「少し、話せるか」
問いではなく、確認に近い声。
レンは答える前に、幼精霊の方を見た。 精霊は何も言わない。 ただ、そこに留まっている。
「……いいよ」
◆
村外れまで歩いたところで、セイルは足を止めた。
「時間は取らせない」
前置きもなく、核心に入る。
「君は、この村に留まれる立場じゃなくなった」
レンは黙って聞いた。
「理由は?」
「説明はできる。だが――理解できるとは限らない」
セイルは一度、言葉を切る。
「連れて行く必要が出た」
その一言で、空気が変わった。
「……強制?」
「拒否はできる」
即答だった。
だが、続く言葉が重い。
「ただし、拒否した場合、次に来るのは俺じゃない」
脅しではない。 淡々とした事実だった。
◆
レンは、村の方を振り返った。
畑。 家。 見慣れた道。
どれも変わらない。
変わったのは――自分だけだ。
「行き先は?」
「今は言えない」
「戻れる?」
「分からない」
正直すぎる答えだった。
◆
少し離れた場所で、リナが拳を握っていた。
「……行くんだよね」
レンはうなずく。
「たぶん」
「そっか」
それだけ言って、リナは前を向いた。 泣かない。 引き止めない。
「じゃあさ」
一瞬だけ、声が揺れる。
「ちゃんと、生きて戻ってきて」
「うん」
◆
家の前では、両親がすでに気づいていた。
詳しい説明はなかった。 それでも、父は察している。
「……そうか」
短く、それだけ。
母はレンの背を抱きしめた。
「無理だけは、しないで」
「するかもしれない」
「それでも」
強く、背中を叩かれる。
◆
準備はほとんど要らなかった。
外套の下で、幼精霊がふわりと揺れる。
逃げない。 離れない。
ついてくる。 それが答えだった。
◆
「行くぞ」
セイルが歩き出す。
レンは、最後に村を一度だけ見た。
守るとも、戻るとも、誓わない。
ただ――
ここで終わらせないために。
少年は、村を出た。
それが、始まりだった。
ここから物語は、村の外へ動き始めます。
まだ全部は語られませんが、少しずつ世界の輪郭が見えてくる予定です。
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