── 第12話─風向きが変わった日──
村を離れた後の、セイル視点の続きです。
静かに状況が動き始めます。
※毎日19時更新予定です。
村を離れて、三日が過ぎていた。
あのとき引き返した判断が、
もはや個人的なものではなくなったのだと、
セイルは理解していた。
本来なら、もう次の町に入っている距離だ。 それでもセイルは、街道の途中で足を止めていた。
――レン。
魂等級ゼロ。 本来なら、記録に残ることすらない存在。
それなのに、 魔力は壊れず、精霊が付き従っている。
(……見なかったことには、できない)
次の瞬間、空気がわずかに軋んだ。
思考の奥に、直接触れてくる感覚。 セイルは小さく舌打ちする。
「……来たか」
『まだ村に関わっているな』
低く、感情のない声。 叱責でも命令でもない。ただの事実確認だった。
「確認は終わった」
『不要だ』
即答。
『対象は、すでに分類済みだ』
魂等級ゼロ。 価値なし。 本来なら、そこで終わるはずの存在。
『だが、予測外の挙動が出た』
魔力が壊れない。 精霊が留まる。
どれも、本来起きてはならない現象だ。
『均衡を乱す可能性がある』
セイルは黙って聞いていた。
『一刻も早く連れて来い』
「連れて行って、どうする?」
わずかな間。
『確認する』
それ以上は語られない。
保護でも、教育でもない。 ただ、連れて行く。 それだけの話だった。
通信は切れ、風の音だけが戻る。
(……やはりな)
魂等級ゼロと判断された少年が、 世界の理屈を静かに狂わせている。
“上”が黙っているはずがない。
セイルは進路を変えた。 再び、村へ向かう。
命令を果たすため。 だが、それだけじゃない。
(せめて――)
何も知らされないまま連れ出される。 それだけは、避けたい。
選択肢が残るなら、 それを示す役くらいは、果たしてやる。
外套を翻し、セイルは歩き出した。
――ただ、風向きだけが変わった。
セイルは歩き続けた。
今回は、セイル側で状況が動いた回でした。
次は、いよいよ村の外へ話が進みます。
引き続き、毎日19時更新予定です。




