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──第11話─引き返す理由──

今回のお話は、レンではなく“彼を見る側”の視点から始まります。

村を離れたはずの旅人が、なぜ足を止め、なぜ引き返したのか。


静かな違和感と、ほんの少しの確信。

その理由が、少しずつ見えてくる回です。 

 


 村を離れて、半日ほど歩いたところで――

 セイルは、足を止めた。


 理由ははっきりしている。

 だが、言葉にするのは難しかった。


(……おかしい)


 薬草の香りも、風の流れも、異常はない。

 それでも、胸の奥に残る違和感だけが、消えずにいた。


 あの少年――レン。


 火も、作物も、魔力を帯びた道具も。

 どれも「壊れずに、静まった」。


 吸収ではない。

 同調……と呼ぶには、静まりすぎている。


「……同調にしては、行き過ぎだ」


 独りごちて、セイルは進路を変えた。

 次の村へ向かう予定だった道を捨て、来た道を引き返す。


 好奇心ではない。

 これは――知ってしまった者の判断だった。


 



 


 再び村に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。


 広場に姿を見せた瞬間、視線が集まる。

 だがセイルの目は、まっすぐ一人に向いていた。


 レン。


 ――そして。


「……は?」


 思わず、声が漏れた。


 少年の肩口、空気の揺れ。

 ごく淡く、しかし確かに存在する気配。


(幼精霊……?)


 見たことがないわけじゃない。

 だが、これは――おかしい。


 契約の痕跡はない。

 縛りも、命令も、召喚の名残もない。


 それなのに。


(……ついてきている)


 まるで、気に入った場所に居座る小動物のように。

 だが、相手は精霊だ。


 偶然で済ませていい事象ではない。


 



 


 レンは気づいていない。

 リナも、はっきりとは分かっていない。


 それが、余計に異常だった。


 幼精霊は、本来もっと警戒心が強い。

 人の近くに、理由もなく留まることはない。


(……いや)


 セイルは、そこで思考を止めた。


 理由がない、わけじゃない。


 理由が、少年の側にある。


 魔力を動かしたのではない。

 精霊を呼んだのでもない。


 ただ――

 そこにいただけで、流れが整っていた。


 



 


 セイルは、静かに息を吐いた。


 かつて、

 似たような現象が、壊れていくのを見たことがある。


 だからこそ、分かる。


(放っておくべきじゃない)


 守るためでも、利用するためでもない。

 だが――関わらずに済ませるには、遅すぎる。


 



 


「……予定変更だな」


 誰にともなく呟く。


 次に来るときは、薬草の採取ついででは済まない。

 村に戻る理由が、はっきりしてしまった。


 セイルは、もう一度だけレンを見た。


「……レン」


 声には出さない。


「君はもう、

 村だけで完結する器じゃない」


 幼精霊が、ふわりと揺れた。

 まるで、その判断を見透かすように。


 セイルは、ゆっくりと息を吐く。


(……これは、俺一人で抱える話じゃないな)


 確信してしまった以上、

 見なかったことにはできない。


 セイルは歩き出した。


 


 次に下される判断が、

 自分の手を離れることを、すでに理解しながら。

今回は薬師・セイルの視点回でした。

レン本人が知らないところで、周囲の見方が少しずつ変わっていく――

そんな気配を感じてもらえたら嬉しいです。


物語はまだ静かですが、確実に次の段階へ向かっています。

この先、村の外の世界も少しずつ近づいてきます。


本作は毎日19時更新を予定しています。

引き続き、ゆっくりお付き合いいただけたら幸いです。

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