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── 第10話─名もない精霊と祠──

書いているうちに、

設定や流れを深く考える場面が増えてきました。


気づけば、最初に思い描いていた形から

少しずつ変わっているところもあります。


でも、その変化も含めて

今はこの物語を書いている時間そのものを楽しんでいます。


小さな出来事が、どんなふうにつながっていくのか。

その過程を、よければ一緒に見ていただけたら嬉しいです。


(毎日19時更新)




 森の空気が、いつもと少し違っていた。


風は吹いているのに、葉の揺れが揃わない。

足元を流れる魔力も、どこか引っかかるように滞っている。


「……やっぱり、おかしいね」


隣を歩くリナが、小さくつぶやいた。


「ああ。魔力の流れが、途中で詰まってる」


自分でも、そんなことが分かるようになったのが不思議だった。

けれど、ここ最近――

火も、作物も、道具も。

“乱れ”があると、自然と目につくようになっていた。


森の奥から、低い唸り声が響く。


魔獣だ。


姿は見えないが、気配ははっきりしている。

けれど、一定の距離より先には進んでこない。


「入ってこないね……」


「うん。あそこから先は、来れない」


視線の先には、古い祠があった。

村の外れ、生活圏のぎりぎりに建てられた小さな石の祠。


派手な加護があるわけじゃない。

ただ、魔力の流れを“整える結び目”のような役割を果たしている。


祠と村の生活圏が重なっているから、

魔獣はそれ以上、踏み込めない。


(……でも、流れが歪んでる)


祠そのものが壊れているわけじゃない。

ただ、魔力が偏って溜まり、外へ逃げきれていない。


そのせいで、森の魔獣も落ち着かず、

けれど入れずに、ここで留まっている。


「レン……どうする?」


リナがこちらを見る。


俺は一歩、前に出た。


何か特別なことをするつもりはなかった。

呪文も、術式もない。


ただ、そこに立つ。


祠の前で、魔力の流れに身をさらす。


すると――

胸の奥に、あの感覚が生まれた。


引き寄せるでも、奪うでもない。

乱れた流れが、触れた瞬間にほどけていく。


森の奥で、魔獣の唸りが小さくなる。


魔力が、静かに流れ始めた。


「……収まってきた」


リナが息を呑む。


そのときだった。


小さな気配が、足元をすり抜けた。



淡い光の粒が集まり、

掌に乗るほどの幼い精霊の姿になる。


「……レン。今の……」


「うん。たぶん、幼精霊」


呼んだ覚えはない。

契約も、命令もしていない。


ただ、魔力が落ち着いた場所に、

自然と寄ってきただけだ。


幼精霊は祠の影をくるりと回り、

一度だけ、こちらを振り返る。


そして、祠に触れるように光を残し――

ふっと姿を消した。


同時に、周囲の空気がさらに静まった。


「……お礼、かな」


リナが小さく言った。


「かもね」


祠の周囲を流れる魔力は、

さっきまでの滞りが嘘のように整っている。


魔獣の気配も、森の奥へ遠ざかっていった。


俺は祠を見つめたまま、少し考える。


ここに立ち続ける必要はない。

守ると決めたわけでもない。


ただ今は――

この場所で起きていることに、ちゃんと手を伸ばせた。


それだけで、十分だった。


「帰ろっか」


リナの声に、俺はうなずく。


歩き出すと、背後で小さな光が一瞬だけ瞬いた。


幼精霊が、少し離れた位置からついてきている。

隠れるつもりも、離れるつもりもないらしい。


「……来るんだ」


「気に入られたんじゃない?」


「そんなこと、あるのかな」


「あるんじゃない? レンだし」


そう言って、リナは笑った。


森を抜け、村へ戻る道。

背後には、静まった魔力の流れと、

小さな精霊の気配が、確かについてきていた。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


レンの力や、村との距離感は、

書いているうちに少しずつ形を変えてきました。

最初は「何者か分からない存在」だった彼が、

今は“ただ、そこにいることで何かを変えてしまう存在”として

動き始めている気がします。


この先も、答えを急がず、

起きたことを一つずつ積み重ねていけたらと思っています。


また次の話でお会いできたら嬉しいです。


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