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きらめきの地下迷宮


 ダンジョン。


 普段、ゲームをしない、ファンタジーに馴染みのない人間向けに説明するとなると、少し難しい。


 洞窟をイメージしてほしい。地下炭鉱場でも発掘場でもいい。現実にある炭鉱場や発掘場で働いている各位については、実地より優しいのがダンジョンだ。


 なぜなら階段があるし既にランタンとがで照らされているから。現実より優しい地下炭鉱場、それがダンジョンです。


 そういうのに馴染みが無い人間は、足場の悪い洞窟があってところどころ壁伝いにはランプがある。たまに煉瓦で舗装された道もある迷路、と考えれば大丈夫。オール・アローン・ワールドではダンジョンがいくつかあり、みはてぬ海のダンジョン、よあけの砂漠のダンジョンと、各所によって個性がある。


 海系の場所は海底洞窟になっていたり、砂漠系の場所は白い砂で出来ていたりとかだ。


 人が何故ダンジョンに潜るのかといえば、ロマン。ダンジョンは奥深くに行けば行くほど、強い武器や中々手に入らないアイテムが拾える。


 ピッケルを装備して壁も掘ったりできるので、黙々と掘るのも楽しい。


 人によって遊び方が違う、ダンジョン。


 私は毎日のデイリーミッションにダンジョンへ向かうがあったので、ササっと近場を選び転移した。一度行ったところはマップ選択でひとっとび。建物内はアウトという制約があるので、ダンジョンの外だけど。


 そうしてダンジョンの入り口に到着したのもつかの間、げんぞさんがダンジョンに入っていく後ろ姿を見かけた。


 なんか避けるのも違うけど、ひとりでやりたいと思っていたら邪魔したくないしな、と私は隠れる。


 ここは通称きらめきダンジョン。モンスターは少なく素材が多い場所。冒険や探索をしているプレイヤーよりも、ピッケルで壁掘ってるプレイヤーのほうが多い。ある意味蟹採取武装集団と変わらない。採掘スポットだ。


 私はおそるおそる、げんぞさんの後方を進んでいく。


 げんぞさんは相変わらずちびっこべビ人形スタイルで、大きな斧を構えている。ほかの通りすがりのプレイヤーもいるけど、一歩が小さいのでどんどん抜かされている。


 なんか、そういうキャラみたいだ。発掘ダンジョンくんみたいなマスコットキャラ。


 眺めていると、げんぞさんはベチン、と転んだ。靴の装備が甘いとこうしたダンジョンでは足が取られる。ダメージはあんまり入らない。うつ伏せでワタワタした後、うんしょうんしょと起き上がった。


 そのまま彼は奥へと突き進んでいく。直線方向だ。何か目的地があるのだろうか?


 気になるけど、追いかけはしない。怖いから。げんぞさんじゃなく、自分が。


 たとえば私が、げんぞさんの手を引いて歩くとする。


 連れ去り状態でも、げんぞさんの心の中がスキップ状態でも、どうでもいいけど思っていても、黙っていたら分からない。


 相手が意志表示をしないまま「される側」を強いることは倫理的にアウトだ。意志の分からない人間の手を引くことは、導きではなく暴力だ。


 相手の意思の確認が取れないまま、引っ張ることは相手の自由を侵害すること。ついて行ってるから同意と思うのは一方に都合がよすぎる。


 承諾か拒否なのか、そこまでのことじゃないと思うのか知りたいけど、立場上聞いたところで言わせてる面も否めない。とはいえ……怖いので様子を見ている。


 げんぞさんはどんどん暗がりに向かう。げんぞさんランプ持ってたっけ? 持ってる気がしない。大丈夫かなと不安になる。追いかけていって「げんぞさんランプですよ」って道を照らしたいけど、げんぞさんが暗闇大好きな可能性もある。


 それに、誰かとの冒険がかけがえないように、一人の時間だって大切にしたほうがいいはずだから。


 でも一応、見守りは許してほしい。正直、げんぞさん停止事件から日が浅いので、トラウマが癒えてない。


「あ?」


 げんぞさんがスポッと真っ逆さまに落ちていった。私は慌てて走り込み、地面を滑りながらげんぞさんの落下地点に向かう。そこには大穴が開いていた。トラップだ。私は穴に向かって飛び込んだ。落下しながら移動速度上昇、滑空時間減少、重量増加を発動させ、落下速度を上げた。


 さらに強化武器の使用時間短縮、大攻撃の溜め時間短縮、効果範囲拡大を発動、天井に向かって連続の溜め撃ちを放った。威力が高く範囲の広い攻撃は反動により身体が後退する。上空に放てば着地位置まで

の短縮になる。


 いわゆる「ゲームが強い」人間は、こういう小難しい、面倒くさいことを積み重ねるのが上手い。


 感覚的にやる人間もいるし、私みたいにパズルみたいな気持ちで行う人間も様々だけど。小さい頃からしてなくても、右手が動かなくても目が見えなくても、どこかがハマれば、何でもできる。それがゲームの良さだ。 


 そうして落下地点までたどり着くと、ばふんっと私は跳ね上がった。どうやら落下地点に誰かが巨大なトランポリンを置いていたらしい。イベント限定アイテムだから、げんぞさんじゃない。それにサイズも魔法で拡大されている。


「どなたがぞんじませんがほんとにありがとうございましたしんじゃうところでしたありがとう」


 そう言って、トランポリンの隅でお礼を言っていた。周りには誰もいない。そしてクルクル回っている。やっぱり会釈とかのアクションを伝えたほうがいいのかもしれない。


 アクションはエモートとも呼ばれ、手を振ったり頭を下げたり踊ったり、操作しているキャラがポーズをとるというもの。


 入手方法は、この間のげんぞさんみたいにNPCの依頼を達成するか、エモートを普通に教えてくれるNPCを見つけるか、課金で買うかだ。


 会釈は星空が見られる綺麗な場所にあるので、一緒に星空を眺めるのもありかもしれない。


 てくてくダンジョンを突き進むげんぞさんの跡を追うと、大きくて丸いドームの内部みたいな場所に辿り着いた。


 プラネタリウムみたいな場所だ。こんな場所あるのか。丸いドームの天井には鉱石が埋まっている。武器……特に剣や魔法の杖の素材になるようなものだ。赤、青、黄色、緑、ピンク、紫、水色ときらきら光っている。


「あ、結構やってますね」


 ぼんやり宙を見上げてると、他のプレイヤーが暗がりから話しかけてきた。


「あ、どうも」


 結構やってる、というのは私の銃を見てのことだろう。初期のイベントの成功報酬だから。こういう現実のハンドガンタイプのものが無かったので、当時はすごい人気だった。今、同じ武器を使ってる人間はなかなか見ない。


「僕、銃の時はそれっす。普段はこれ」


 そう言ってプレイヤーは歯車が沢山重なった弓を取り出した。攻略難易度の高いモンスターを討伐した報酬だ。


「ここ、僕、二回めなんです、へへ」

「ここって……なんなんですか? 私初めて来て」

「ランダムで来れるみたいな感じですね。本当に運です。僕、結構やってて、毎日は来てないですけど、結構来てて……でも二回なんで、結構レアですよ。鉱石メッチャ掘れるし、一回出てマップ変わるともう来れないので」

「へー」

「あのプレイヤーさんめっちゃ喜んでるけど、来たかったんですかね、ふふ」


 弓のプレイヤーはげんぞさんを見た。げんぞさんは走り回っている。まるで景色を堪能するみたいに。


「ですね」

「鉱石、掘っとくといいですよ。ここ限定のがあるので。じゃ、ちょっとあの人にも言ってくるんで、じゃ」

「ありがとうございました」

「いやいや」


 弓のプレイヤーは、やさしくはにかんだあと、げんぞさんのほうへ向かった。ひらがなの羅列が飛んでくるだろうけど、多分あの人なら大丈夫だろう。


 遠くで眺めていると、長いフキダシがげんぞさんの頭上に浮かぶ。弓のプレイヤーはエモート交じりに対話していた。


 げんぞさんと弓のプレイヤーは鉱石の光を受けている。でも、二人はふたりとして、きらきら輝いているように見えた。

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