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魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第一章 医務室の影
9/20

21:13 食堂棟・搬入口

 俺たちは、食堂の裏口にたどり着いた。


 祭の準備で開け放たれていた搬入口。

 今は鉄の扉が半開きのまま、夜気を吸い込んでいる。

 そこだけ、まるで祭の時間だけが置き去りにされたようだった。


 誰かが置き忘れた台車。積みきれなかった段ボール。

 そこには、賑わいの名残が残っていた。

 ――カップケーキの包み紙、手書きの「完売御礼」、景品の空箱。


「この先、裏通路を抜ければ、医務室の裏に出る」


 そう告げると、トールは「よし」と頷いた。

 だがすぐには動かず、無言で段ボールの山を一つ一つ確認し始めた。


「……やり合うことになったらさ」

 押し殺した声。けれど、迷いはない。

 「接触すると、マナが引きずられて、暴走するんだろ?」


「ああ。こっちまで引き込まれたら、アウトだ」


 トールは器用に小さな収納棚を探っていた。

 中から出てくるのは、缶詰、乾燥スープ、古びた保存パン。

 どれも祭の前日、俺たちが台車で運んだ備蓄だった。


「防具は無理でも、“間”を取れるもんがあればいい」

 そう言って、調理台の下に潜り込む。

 しばらくして彼が引きずり出したのは──


「……これ、どうだ」


 大判の鍋蓋と、焦げついた鉄のトレー。

 どちらも厚みがあり、即席の盾にはちょうどいい。


「十分だ。即席のガードにはなる」


 トールは鍋蓋を背中にくくりつけ、

 棚から取り出した厚手の手袋を左手にはめる。

 何も言わないが、その動作に“本気”がにじんでいた。


「できるだけ、触れずに済ませられれば……」


 相変わらず、無骨で頼もしいやつだ。


 俺も、棚の奥を探る。

 ふと、手に触れたのは布に包まれた──香草入りの蒸気パック。

 厨房で使われる、疲労回復用の温パッドだった。


(もしかすると……落ち着かせられるかもしれない)


「……もらう」

 そう言って、そっとポケットに滑り込ませた。

 「相手が、ほんの少しでも“戻る余地”を持ってたら……効くかもしれない」


 トールが片方の口角を上げた。


「……優しいな、お前。マジで。……だから、頼むぜ」


 ロウソクの火を少しだけ明るくして、搬入口を抜ける。


 裏通路は、窓のない短い回廊だった。

 けれど一本道だ。突き当たりを左に曲がれば、そこが──医務室の裏。


「行くぞ」


「おう」


 俺たちは歩き出す。

 誰かの声援が、いまだに残響のように頭の奥で響いている。


 シーナを助けるために。

 かつて、三人で笑いあった食堂を通って。


 ──そのとき、背後から風が吹いた。

 搬入口の方から。

 不自然なほど、生ぬるかった。


 祭の熱狂は消えた。

 でも、まだ終わっていない。

 少なくとも──俺たちにとっては。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


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「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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